ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回はデヴォン・プライスの『「怠惰」なんて存在しない』をご紹介。
休むこと・断ることに罪悪感を覚えてしまう人たちへ
他人からの期待に全力で応えようと、キャパシティを超えても仕事を引き受け、休みを取ることにさえ罪悪感を覚えてしまう……。本書はそんな生まじめな人たちに「無理に働かなくていい。むしろ“怠惰”であるほうがいい」という新たな視点を与えてくれる1冊だ。
著者は、社会心理学者でありオーバーワークで心身を壊した過去を持つ元仕事至上主義者。自身の経験を起点に、いかにして「怠惰=悪、努力=善」という価値観が世界に根づいたのか、なぜ人は「自分を限界まで追いこむこと」を美徳とし「休むこと・断ること」に恐怖するのかを、綿密な調査と心理学データをもとに暴いていく。
さらに本書は、怠惰に見える同僚や部下との接し方に悩むリーダー層の組織マネジメントの手引きとしても有用であり、また「子供のために完璧な親でなければならない」と思いこんでいる子育て世代のサポートブックにもなるだろう。
私自身もこれまで、「怠け者になってしまう自分が怖い」という一念で、私生活の時間を削り、仕事に忙殺されながら26年間テレビ番組の制作に携わってきた。今年こそ、ちょっと長めの夏休みを申請する。だって、怠惰など存在しないのだから。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSC(タレント養成所・吉本総合芸能学院)の講師も務めており、令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1に輩出している。