PERSON

2024.07.15

「自分のせい」より「誰かのせい」思考の方が、真っ当に、健康に生きられる

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

幼少期から「人のせいにするな」と言われ続けてきた。

社会に出ても、上司や先輩から「成長しないのは自己責任」「数字が悪いのはお前のせい」と叱られてきた。

本当に「人のせいにするな」や、「成果が上がらない仕事=自分のせい」は正しいのでしょうか?

僕が30年間、業界の第一線で、多くの一流に揉まれながら得たこと。

それは“何もかも自分の責任として捉える「自分のせい」思考よりも、「誰かのせい」のほうがビジネスパーソンにとって真っ当な生きかた”という知見です。

一体どういうことか? 今回は、その辺りのツボをほぐしていきます。

1行で伝わる人、1万ページでも伝わらない人がいる

以前、某テレビ局に提案し、鼻で笑われたクイズ番組企画を、そのまま他局に見せたら一発でゴールデン番組になったことがある。

そこで分かったのは、よく上司や決定権を持つ人は“こちらの能力”を問うが、「よい仕事」の半分は“あちらの能力”もないと立脚しないってこと。

つまり、あなたが秀逸なプランを提案しても、相手の能力やセンスによって、伝わる人には1行で響くし、伝わらない人には1万ページ書いても響かないこともある。それがビジネスだということ。

採択者の言う「つまらない」「この仕事に向いていない」などの鋭利な言葉にヘコみ、「自分のせいだ……」と思うか。「相手のせいでもある」という、ゆとりある思考を手に入れるか。

さあ、どちらが健康的でしょう?

ちなみに僕は、クリエイティブな業界を目指す生徒たちに“自分の才能を疑う前に、相手の才能を疑うことができる才能も持っていないと、この仕事は続かないよ”と伝えています。

「成果が上がらない仕事の原因=自分のせい」を疑え

仕事の成果が思うように上がらないとき。上司や組織は「実力不足」や「努力不足」を指摘し、おのずと私たちは「自分のせい」というマインドに陥っていく。

しかし、「成果が上がらない仕事の原因=自分のせい」とは言い切れません。

例えば、若手芸人は、デビュー当初はほとんど劇場でウケません。今ではM‐1決勝に行く実力派も、若手の頃からクオリティは高いのに、そんなにウケないんです。

しかし、劇場で看板を張っている人気芸人が、「最近〇〇という若手が面白い」と発言すると、途端にウケ始めたりする。

これは、ビジネスシーンでもよくあること。

社会は“何を言っているか?”でなく“誰が言っているか?”に引っ張られます。

無名芸人がステージで「言っていること(ネタ)」よりも、人気芸人の言う「おもしろい(承認)」のほうが評価を高める。

これと同じで、あなたの職場での発言や企画内容よりも、力を持っている上司の「あいつ、面白いじゃん」のほうが重視され、しかるべき人に承認されるとチャンスや成果が巡ってくる。これが世の常。

なので、いま自分のアウトプットに手ごたえを感じている人は、フォームを崩さず自分流を磨き続け“あとは見つけられるだけ”という思考で、どっしり構えることも大切なんです。

「誰かのせい」=「責任のなすりつけ」ではない

最後に、勘違いしてほしくないのは、「誰かのせい」は「責任逃れをしよう」というメッセージではないということ。

僕が膝をつき合わせてきた一流と呼ばれる芸能人やクリエーターに共通しているのは“もっとも発言力があるヤツが、もっとも責任を負う”という仕事哲学。

失敗、乏しい成果、チーム不和などの責任は、誰よりも発言した自分がすべて引き受ける。

しかし、「自分のせい」が頭を占めると肯定感が下がるので、彼らは次の仕事の成功確率を上げるために、「タイミングが悪かった」「万人ウケではなかったがコアファンには刺さった」「時代が早すぎた」など、チーム内の誰かではなく、“見えない幽霊=誰かのせい”にしてポジティブに前を向く。そういった能力を身につけているんです。

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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