ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回はピーター・ボゴジアン+ジェームズ・リンゼイの『話が通じない相手と話をする方法』をご紹介。
行間から苦手なアイツが顔を出す。分断社会を生き抜く対話マニュアル
分断と二極化が凄まじいスピードで進むこの時代、考え方がまったく異なる他者と対話するにはどうすればいいのか? 本書は「話が通じない相手」と、言葉と心を通わせる実践的マニュアルである。
米国人の哲学者と文筆家による共著なのだが、ふたりが披露するメソッドは心理学、脱洗脳、人質交渉学にまでいたり、あらゆる研究成果を結集したユニークな指南書となっている。
「会話をうまく運ぶフレーズ」「緊迫した空気で使えるフレーズ」「相手が敵意を感じている時のフレーズ」など、すぐにでも模倣できるワード集は一読の価値あり。頑固な上司、無気力な部下といった「苦手なアイツ」を思い浮かべながら読めば、より自分の血肉となるだろう。
いっぽう、ふたりの著者はともに「お騒がせ者」としても知られている人物だ。過激発言でX(旧Twitter)を停止されたり、エセ論文を偽名で発表した過去もある。実は、彼ら自身がまさに「話が通じない相手」なのだ。
思想も言動もいけすかないふたりが、常識的に対話の基礎や原理を説き、共感や傾聴の大切さを語りかけてくる。「話の通じない」ふたりから対話の神髄を教わるという、実に不思議な読書体験も味わえる1冊だ。
桝本壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として数々の人気番組を担当。NSC(タレント養成所・吉本総合芸能学院)の講師も務めており、令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1に輩出している。