「自分が行ってきた勉強法が、科学的にも効果の高い勉強法だった」と語るのは、アメリカの医師国家試験をトップ1%で合格した医師・安川康介氏。学生時代、ペンケースに何本も蛍光マーカを入れていた人も多いとだろう。しかしこの方法、「勉強をやった気」にはなるが、科学的効果は低めだと安川氏は言う。『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)の、一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】
線が”引いてあるところ”だけに気が向きがち
あまり効果のない学習方法として、「ハイライトすることや下線を引くこと」があります。色とりどりの蛍光ペンを使って単語や文章をハイライトすると、なんとなく勉強した気になります。けれども残念ながら、これにはあまり効果がありません。
【研究】
例えば、アメリカの大学生を対象とした研究では、学生を8000語の文章をハイライトするグループ、ハイライトしないグループ、他の人がハイライトしたものを読むグループに分け、1時間かけて読んでもらいました。1週間後、10 分だけ文章を見直してから内容についてのテストを行ったところ、どのグループでもテストの点数に差がなかったことが報告されています。
また、1992年に報告された大学生を対象とした研究では、大学で使う歴史の教科書の章を、下線を引きながら読むグループ、引かないでただ読むグループに分け、その1週間後に15 分間、教材を見直してから内容についての試験を受けてもらいました。2つのグループの試験の点数には差がないどころか、興味深いことに、推論問題については下線を引きながら読み、それを見直してから試験を受けた学生たちのほうが、点数が低いという結果でした。
もしかしたら、下線が引いてあるところだけに気が向き、全体の内容を関連づけて理解することが阻害されてしまった可能性があります。
そのほかにも、ハイライトを学習に取り入れていた学生のほうが、試験での成績が悪いという報告もあります。
ハイライトや下線を引くという勉強法は、文章を要約することと同様に、個人差があると言われています。つまり、強調する場所を選ぶのがうまい学習者もいれば、そうでない学習者もいて、そのハイライトした教材をどのように勉強するのかも人によって違ってくるのではないかということです。
先ほどの、膨大な過去の研究を調べたダンロスキーらの報告書でも、ハイライトについてはこのようにまとめられています。
「今ある科学的根拠に基づき、ハイライトや線を引くことは有用性が低いと評価する。これまで検証されたほとんどの状況や学習者において、ハイライトは成績向上にほとんど効果がない。ハイライトをより効果的に行う知識を学習者が持っている場合や、文章が難しい場合には役立つかもしれないが、推論を必要とする、より高度な課題では、かえってパフォーマンスを低下させる可能性がある」
「ハイライトで勉強した気になってしまう」に注意
このようにかなり低い評価となっているハイライトと下線ですが、僕は本や教科書、学術論文などを読む時、ハイライトしたり下線を引いたりすることがよくあります。昔から使い慣れている日本のuniのプロパス・ウインドウ蛍光ペンをアメリカでも購入して使っているくらいです。大事なところは蛍光ペン、それよりちょっと重要性は落ちるけれど強調したい箇所は赤いペンで下線と、使い分けることもあります。
ハイライトや下線を引くことは、それほど手間がかからないことと、繰り返し通読することはしないので、あとで覚え直すところ、何か資料として使えそうなところはマークしておきます(なので、みなさんも気にせずにこの本にハイライトや下線を引きましょう)。しかし、再読と同じで、あまり効果がないにもかかわらず「勉強した気になってしまう」ことがある点には注意し、ハイライトや下線を引くだけでなく、効果の高い学習法も行う必要があります。