戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、選手・監督として65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也監督。没後3年を経ても、野村語録に関する書籍は人気を誇る。それは彼の言葉に普遍性があるからだ。改めて野村監督の言葉を振り返り、一考のきっかけとしていただきたい。連載「ノムラの言霊」15回目。
人格は育った環境によって形成される「氏より育ち」?
今季、通算2000安打を達成し、名球会に入会した大島洋平(中日)の血液型はAだ。
さらに日米通算200勝を間近に控える田中将大(楽天)はA型、同じくダルビッシュ有(パドレス)もA型、日米通算250セーブが近づく平野佳寿(オリックス)はO型。
来季以降、名球会を視野に入れる山﨑康晃(DeNA)はO型、松井裕樹(楽天)はA型、益田直也はB型だ。ちなみに投打二刀流の大谷翔平(エンゼルス)はB型だ。
行動主義心理学の創始者であるアメリカの心理学者、ジョン・ブローダス・ワトソンはこう主張した。
「自分に赤ん坊を預けてくれれば、条件づけを施して、その子の能力や遺伝にかかわらず、医者・弁護士・芸術家・犯罪者までをも育ててみせよう」
すなわち、「氏より育ち」というわけだ。
日本にも「氏より育ち」という格言がある。氏(血筋)が2割ぐらいなら、育ち(環境)が8割。つまり、人格は「血筋」よりも「環境」によって形作られるということだ。
土壇場で実力を発揮できる「不真面目な優等生」
新人が活躍すると野球の基礎を育んだ環境、出身校のプレースタイルが気になるものだ。
だから選手名鑑には必ず「球歴」が掲載されている。また、環境(育ち)の最たる象徴が「クセ」である。それゆえ野村はクセに注目した。
しかし、ここぞという場面で、意外にも野村が重視したのは「血液型」だった。
高卒ドラフト1位で阪神に入団した年から6年連続奪三振王という、とてつもない記録を樹立した江夏豊に野村は聞いた。
「豊よ、お前、B型、O型、どっちや?」
「オレはA型や」
「ウソつけ(笑)」
江夏はわざわざ病院に行って証明書を持参。「ほらAや」と、ドヤ顔で言った。大胆かつ繊細な投球術。繊細な部分は、やはりA型なのだろう。
一般的な血液型による性格分析は以下のものに代表される。
- A型(40%)真面目、几帳面、コツコツ型。
- B型(20%)リーダー的存在、お天気屋、マイペース。
- O型(30%)自信家、負けず嫌い、大ざっぱ、親分肌。
- AB型(10%)二面性、能率的、理想家、防衛本能が強い。
「ワシは自分で名球会選手を少し調べた。A型はやはりコツコツ型だ。B型は爆発的な活躍をする。400勝投手のカネやん(金田正一)、“鉄腕”稲尾(和久)、イチロー、ワシ、長嶋(茂雄)……。ほら、言ったとおりやろ。まあ、強いて言うならO型もそうか。O型の人間の割合は多いからな」
また、世の中には大別すると4タイプの人間が存在するだろう。
(1)真面目な優等生(2)不真面目な優等生(3)真面目な劣等生(4)不真面な劣等生
土壇場においては、委縮しそうな「真面目な優等生」より、細かなことにこだわらない「不真面目な優等生」のほうが、実力を発揮できるのではないかと野村は考えるフシがあった。
A型が(1)や(3)につながり、B型やO型は(2)につながるということだろう。
だから野村が楽天監督時代の試合中、コーチにはこういう質問が飛んだ。
「いま代打の準備をしているアイツの血液型は何型や?」
嘘のような本当の話である。楽天コーチは「ポケット選手名鑑」を試合中、手放せなかったそうだ。
爆発的な活躍をするB型がプロ野球選手に向いている?
「血液型がB、もしくはOが大成する。お前はA型だろう。真面目だけが取り柄で、出世は望めんな(笑)」
「野村監督はB型ですね。奥様(沙知代夫人)は何型ですか?」(記者)
「話の流れからすれば、B型に決まっているだろう。おい、試しに『通算200勝』『通算2000安打』の血液型を調べてくれ」
投手29人、打者57人の血液型を調べてみると、野村が言う傾向が如実に現れた(選手の所属は最終在籍球団)。
血液型による性格分析には科学的根拠はないともいわれる昨今だが、結果的に野球界の実績最高峰の名球会でそのような傾向が出たので野村はニンマリだった。
試しに自分と同じ血液型にどんなスター選手がいるか、探してみても興味深い。
【A型の投手】全23人中、4人(約17%)
小山正明(大洋)、村山実(阪神)、江夏豊(西武)、高津臣吾(ヤクルト)
【B型の投手】全23人中、5人(約22%)
金田正一(巨人)、稲尾和久(西鉄)、梶本隆夫(阪急)、黒田博樹(広島)、野茂英雄(近鉄)
【O型の投手】全23人中、9人(約39%)
鈴木啓示(近鉄)、山田久志(阪急)、東尾修(西武)、工藤公康(西武)、杉下茂(毎日)、北別府学(広島)、堀内恒夫(巨人)、平松政次(大洋)、佐々木主浩(横浜)
【AB型の投手】全23人中、5人(約22%)
米田哲也(近鉄)、皆川睦雄(南海)、山本昌(中日)、村田兆治(ロッテ)、岩瀬仁紀(中日)
【血液型不明の投手】全23人中、6人
別所毅彦(巨人)、ビクトル・スタルヒン(トンボ)、野口二郎(阪急)、若林忠(毎日)、中尾碩志(巨人)、藤本英雄(巨人)
【A型の打者】全57人中、17人(約30%)
青木親宣(ヤクルト)、立浪和義(中日)、川上哲治(巨人)、榎本喜八(西鉄)、山内一弘(広島)、広瀬叔功(南海)、阿部慎之介(巨人)、小笠原道大(中日)、谷繁元信(中日)、アレックス・ラミレス(DeNA)、松原誠(巨人)、江藤慎一(ロッテ)、有藤道世(ロッテ)、加藤英司(南海)、荒木雅博(中日)、新井宏昌(近鉄)、柴田勲(巨人)
【B型の打者】全57人中、18人(約32%)
イチロー(マリナーズ)、野村克也(西武)、門田博光(ダイエー)、福本豊(阪急)、長嶋茂雄(巨人)、石井琢朗(広島)、福留孝介(中日)、山本浩二(広島)、新井貴浩(広島)、内川聖一(ヤクルト)、若松勉(ヤクルト)、清原和博(オリックス)、鳥谷敬(ロッテ)、古田敦也(ヤクルト)、山崎裕之(西武)、谷沢健一(中日)、野村謙二郎(広島)、福浦和也(ロッテ)
【O型の打者】全57人中、20人(約35%)
張本勲(ロッテ)、王貞治(巨人)、松井稼頭央(西武)、松井秀喜(巨人)、衣笠祥雄(広島)、金本知憲(阪神)、土井正博(西武)、落合博満(日本ハム)、高木守道(中日)、井口資仁(ロッテ)、大杉勝男(ヤクルト)、大島康徳(日本ハム)、稲葉篤紀(日本ハム)、秋山幸二(ダイエー)、宮本慎也(ヤクルト)、中村紀洋(DeNA)、藤田平(阪神)、和田一浩(中日)、田中幸雄(日本ハム)、駒田徳広(横浜)
【AB型の打者】全57人中、2人(約4%)
前田智徳(広島)、小久保浩紀(ソフトバンク)
まとめ
ID野球で理論派の野村克也が、なぜか人間を大別する血液型の傾向は信じていた。データを見るとプロ野球選手として大成するのはB型、もしくはO型が多い。有事、土壇場で爆発力を発揮するのは「不真面目な優等生」だろうか。コツコツと努力が必要な仕事には、A型の人間が適性かもしれない。
著者:中街秀正/Hidemasa Nakamachi
大学院にてスポーツクラブ・マネジメント(スポーツ組織の管理運営、選手のセカンドキャリアなど)を学ぶ。またプロ野球記者として現場取材歴30年。野村克也氏の書籍10冊以上の企画・取材に携わる。