「自分が行ってきた勉強法が、科学的にも効果の高い勉強法だった」と語るのは、アメリカの医師国家試験をトップ1%で合格した医師・安川康介氏。誰もが慣れ親しんでいるアノ勉強法が、実は科学的には効果が高くないのだという。『科学的根拠に基づく最高の勉強法』(KADOKAWA)の、一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】
達成感はあるけど試験の点数は……?
あまり効果の高くない勉強法、それは「教科書や参考書の文章をノートにただ書き写す・まとめること」です。
教科書や参考書の内容を、綺麗な字でノートに書き写したり、まとめたりしているのに、試験の点数が芳しくない人は意外と多いのではないのでしょうか。参考書のポイントだと思う箇所や、英単語帳から英単語をノートに丁寧に書き写したり、まとめたりすることは、それだけで達成感があり、「勉強した気」になってしまう行為です。
【研究】
アメリカの高校生180人を対象に、ノートの取り方についての学習効果を調べた研究をみてみましょう。この調査では、次のような複数のグループに学生を分け、アフリカの架空の部族に関する2000語の文章を高校生に読んでもらいました。
▪ Aグループ: 各ページを読んだあとに、短く3行に内容をまとめる(要約)
▪Bグループ: 読んでいる時に重要だと思う文章が出てきたら、自分の言葉でノートに書く(パラフレーズ)
▪ Cグループ: 重要だと思う文章を3行そのまま書き写す
▪ Dグループ: 文章を読むだけ
そして、勉強直後と1週間後に内容についての試験を受けてもらい、学習効果を調べました。結果は、文章をそのまま書き写した生徒は、ただ文章を読んだ学生と変わらないというものでした。
書かれた文章をそのまま書き写す作業は、文章を記憶したり理解したりしなくてもできるうえ、脳で負荷のかかる処理がほとんど行われないため、学習効果が低いと考えられます。
それでは、自分の言葉でまとめる学習効果はどうでしょうか。この研究では、パラフレーズしたBグループと、より短く要約したAグループの点数は同等で、ただ読んだ学生や、そのまま書き写した学生よりも高い点数となりました。
読んだ文章を自分の頭の中で処理して言い換える、まとめることには、一定の効果があるとする研究報告は、このほかにも複数あります。
しかし、注意しなければいけないのは、何かを「要約」するという場合の方法と、その質です。どれくらいの基礎知識があって、どこの部分を重要と判断し、どれくらいの量の情報を、どれくらいの文章にまとめるのかなど、要約する能力と、要約した情報の質には、かなりの個人差があります。
アメリカの大学生を対象とした要約の学習効果を調べた調査があります。心理学を勉強している大学生に、「論理学における誤謬(ごびゅう)」というトピックについて、以下のグループに分けて勉強してもらいました(実際にはより多くのグループに分けていますが省略します)。
▪ Aグループ: 内容を友だちに教えるように要約する
▪ Bグループ: 特に指示を受けず通常通り勉強する
学習後、大学生たちに内容についての応用問題を解いてもらったところ、2つのグループの試験の点数には有意な差はありませんでした。また、要約した内容を詳しくみてみると、約3分の1以上の学生の要約には、論理学での誤謬に関するきちんとした定義が記入されておらず、的確に情報を捉えた質の高い要約をしている学生では、試験の点数がより高かったことが報告されています。
要約をうまくできるようになるための特別な訓練を行うと学習効果が高まる、という報告もありますが、そうした特別な訓練を多くの人が受けているわけではありません。さらに、後述するいくつかの学習法と比べても、要約の学習効果が低いことが報告されています。
ダンロスキーらによる報告書は、要約について以下のような評価をしています。
「今ある科学的根拠に基づき、要約の有用性は低いと評価する」
要約するのがうまい学習者にとっては、効果的な学習方法になり得るとしつつも、多くの学習者(子どもや高校生、一部の大学生など)にはきちんと要約する訓練が必要であるとしています。
授業中などにノートを取ること自体(それを復習するという行為は別にします) には、どれほど学習効果があるのかについての57の研究をまとめて分析した研究報告によると、効果はあるけれど限定的である、と書かれています。
新しく得た情報は、参考書に書き込んで記憶に定着
ここからは、僕の個人的なノートやまとめについての経験や考えを書きます。
繰り返しになりますが、これが正しいというわけではなく、参考程度に読んでいただければと思います。試験勉強に必要な情報がある程度まとまった教材がある場合は、自分でまとめノートを作り直したり、別のノートに情報を書き写したりする必要性は低く、時間がもったいないと感じます。
高校と大学の授業でも、教科書に書いてあることをそのまま黒板に書く教師の授業や、授業の流れが教科書に忠実でありすぎるといった先生の授業では、(ノートが採点の対象になるといった特別な理由がある以外は、)個人的にはノートを取る理由はあまりないのではないかと考えます。
僕は高校や大学の時、そのような授業があれば、自分1人で教科書・参考書を読んだほうが効率的なので、講義をさぼることさえありました。また、もしも今、義務教育に戻ってノートを取らなければいけないという状況になったとしたら、勉強のヒントの章で述べる「コーネル式ノート」のようなノートを取ると思います。
アメリカの医師国家試験を受ける時、僕は、必要最低限の情報がまとまった教科書(といっても、500ページ以上細かい字で書かれたものでした)の余白に、問題集を解いている時に得た新しい情報を書き込むようにはしていました。試験に必要な情報を1つのソースに集約したうえで、あとで述べるより効果の高い勉強法を使って記憶に定着させていったのです。