GOLF

2025.06.24

服役していたプロゴルファーが奇跡の復活劇とは。「人生にもう一度チャンスが与えられた。今度は正しいことをしたい」

表舞台から姿を消していたアンヘル・カブレラが、米シニアツアーで快進撃を続けている。奇跡の復活劇を追うとともに、アマチュアが参考にすべき手首の使い方を紹介する。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。

2025年マスターズの2日目、14番ホールでティーショットを放つアンヘル・カブレラ。
2025年マスターズの2日目、14番ホールでティーショットを放つアンヘル・カブレラ。

今季シニア3勝のアンヘル・カブレラ、服役から再起のストーリー

2025年4月以降、米シニアツアー「PGAツアーチャンピオンズ」で快進撃を続けているのが、アルゼンチン出身のアンヘル・カブレラだ。

4月初旬に行われたジェームス・ハーディ プロフットボール殿堂招待でシニアツアー初優勝を飾ると、5月19日には米シニアメジャー第1戦・リージョンズトラディションで優勝。さらに翌週のメジャー第2戦・全米シニアプロ選手権も制した。

カブレラは全米オープンとマスターズでメジャー2勝を挙げた実力者だったが、2021年と2022年に女性への暴力で有罪判決を受けて服役し、表舞台から姿を消していた。だが、2023年8月に仮釈放された後、2024年2月に米シニアツアーへ復帰。2025年4月には過去の優勝者としてマスターズにも出場し、シニアツアーでかつての輝きを取り戻そうとしている。

今回は、その「奇跡の復活劇」を追ってみたい。

シニアメジャーを連勝、今季3勝

2025年シーズン、シニアツアーで3勝を挙げている人物は2人いる。ともにスペイン語圏出身。アルゼンチン生まれのアンヘル・カブレラと、スペイン生まれのミゲル・アンヘル・ヒメネスだ。どちらの名前にも、“天使”や“使者”の意味を持つ「アンヘル」が含まれている。

カブレラはジェームス・ハーディ プロフットボール殿堂招待で、初日に68、2日目に66を出して単独首位に立つと、最終日は71で回り、韓国のチェ・キョンジュに2打差をつけて2014年のグリーンブライアークラシック以来の勝利を手にした。

翌週には2019年以来6年ぶりにマスターズに出場。服役歴のある選手の出場には批判もあったが、大会側は偉大なチャンピオンの1人としてカブレラを迎えた。

「人生にもう一度チャンスが与えられた。今度は正しいことをしたい」と語る姿が印象的だったが、過去について問う記者には「私はマスターズで勝った。なぜ出場してはいけないんだ」と言い返す場面もあった。マスターズでは予選通過はならなかったが、その後のシニアツアーで一気にエンジンがかかる。

メジャー初戦のリージョンズトラディションでは、初日70、2日目と3日目に67をマークして首位と3打差の5位に。最終日は悪天候のため、15ホールを終えた時点で日没順延となったが、カブレラはこの時点で暫定首位タイに浮上。持ち越された残り3ホールでは、16番と18番でバーディーを奪って抜け出し、見事シニアメジャー初勝利を飾った。

続く全米プロシニア選手権では、2日目に69、3日目に70をマークし、レティーフ・グーセンらと並んで首位タイで最終日に臨んだ。その最終日も崩れることなく69でまとめ、通算8アンダー。

パドレイグ・ハリントン、トーマス・ビヨーンを1打差で振り切り、シニアメジャー2連勝を果たした。

南米ゴルフ界を背負った男

1969年生まれのカブレラは現在55歳。貧しい家庭に育ち、10歳でキャディとしてゴルフ場に通い始めた。

アルゼンチンのスター選手、故エドアルド・ロメロの勧めで15歳から本格的にゴルフを始め、20歳でプロに転向。当初は結果が出なかったが、ロメロの支援を受けながら欧州ツアーに挑戦し、1995年にシード権を獲得。2001年からはPGAツアーにも参戦した。

2007年の全米オープンではタイガー・ウッズを抑えてメジャー初制覇。中南米出身選手として初のメジャー王者となった。2年後のマスターズでもプレーオフを制し、南米でのゴルフ人気拡大の立役者となった。

全盛期のカブレラの魅力は、恰幅のよい体から繰り出される豪快なショット。その風貌から「エル・パト」の愛称で母国のファンに親しまれた。

「エル・パト」はスペイン語でアヒルを意味し、カブレラのがっしりとした体格と、独特の歩き方がアヒルのようだと評されたことに由来する。飾らない人柄や豪快なプレースタイルとも相まって、カブレラはアルゼンチンのみならず、中南米のゴルフファンにとって親しみの持てるヒーロー的存在だった。

しかし、私生活では問題を抱えていた。2021年に元妻、2022年には別の女性から暴力や脅迫で訴えられ、インターポールから国際指名手配を受ける事態となった。

ブラジルで逮捕され、アルゼンチンに強制送還のうえ裁判を受け、約2年半の禁錮刑が言い渡された。結果として、2023年8月まで服役を余儀なくされた。

こうした過去から、スポーツ選手としてふさわしくないと考える人がいるのも当然だ。

暴力や脅迫といった犯罪は、決して許されるべきではなく、被害者が受けた心の傷や恐怖は時間が経っても容易に癒えるものではない。社会的な評価や復帰にあたっては、まず何よりも被害者の心情に真摯に向き合う姿勢が求められる。

そのうえでカブレラが自らの過ちと向き合い、ゴルフを通じて人生を立て直そうとしていることも事実だ。その姿勢と努力に対して、一定の評価を与える声があるのもまた現実である。

過去の行為を免罪することなく、彼が今後、ゴルフを通じて責任と誠実さをもって社会に向き合い、再生の物語を紡いでいくことを注視していきたい。

アマチュアが参考にするべき手首の使い方とは

カブレラのスイングは「感覚」を重視したスタイルで、特にバックスイングで手首のコックを早めに使う点が際立っている。長年の経験と感性によって築き上げられたスイングのため、アマチュアがそのまま真似するのは難しいが、手首の使い方には参考にすべき要素が多い。

ゴルフにおける手首の動きは、クラブの動きに「動かされる」ものと捉えると、いわゆる手打ちになりにくい。なかでもグリップエンドの向きを意識することで、自然で無理のない手首の使い方が身につきやすくなる。

たとえば、バックスイングで左腕が地面と平行になったとき、グリップエンドが地面を指していれば、手首には自然と角度がつく。

ダウンスイングでも、グリップエンドの動きに合わせてコッキングを緩めていけば、手首はクラブと連動してスムーズに動く。さらにフォロースルーで、クラブが地面と平行の位置にあり、グリップエンドが目標と反対方向を向いていれば、手首は自然に返った形になっている。

クラブを「操作する」という意識ではなく、「クラブの動きに合わせて手首が受動的に動く」という意識を持つことで、手先の余計な動きを抑えることができ、ミスショットも減っていくだろう。

ぜひ、鏡の前で素振りをして、グリップエンドの向きと手首の動きをチェックしてみてほしい。

手首の使い方の動画解説はコチラ

◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。

TEXT=吉田洋一郎

PHOTOGRAPH=AP/アフロ

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