レギュラーシーズン終盤に突如現れたマックス・グレイザーマンの戦いぶりと、アマチュアゴルファーが取り入れるべきスイングの特徴を紹介する。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。
グレイザーマンの活躍は本物か
PGAツアーは毎年終盤にドラマがある。
シーズン前半でも後半でもポイントの算定方法が変わる訳ではないのだが、やはり後半のほうがポイントの重みが違う。そのため、シーズン終盤になると調子を上げて一気に上位に駆け上がる選手が出てくる。
2023年も故障の影響で低迷していた元全米オープン覇者のルーカス・グローバーが、レギュラーツアー最終戦のウィンダム選手権で優勝してプレーオフへの出場権を手にすると、翌週のプレーオフシリーズ初戦のフェデックスセントジュード選手権でも勝利して2連勝した。
グローバーはシード権争いをしていた112位から一気に4位まで順位を急上昇させ、そのまま奇跡の年間王者を手にするのではないかと騒がれたことを覚えている人も多いだろう。
2024年のレギュラーシーズンでも、終盤にマックス・グレイザーマンが好成績を上げてプレーオフに滑りこんだ。惜しくもプレーオフでは快進撃とはいかなかったが、突如現れたグレイザーマンの戦いぶりとスイングの特徴を紹介しよう。
悪天候の中の強行日程で突然崩れる
レギュラーシーズンシーズンも残り2試合となった3Mオープンにおいて、グレイザーマンは3日目まで目立った活躍もなく、最終日は首位のジョナサン・ベガスと8打差の15位タイからのスタートだった。
ところが、前半でバーディー2つを取ると、後半で猛チャージを見せる。
10、11、12番で3連続バーディーを奪うと、14、16番もバーディー。13番までに3つのボギーを叩いて足踏み状態のベガスに1打差にまで追いついた。
ゴルフ専門チャンネルのゴルフネットワークで3Mオープン最終日の解説をしていたのでこの快進撃は印象に残っている。
池が絡むパー5の18番ではティーショットを左の林に入れてしまい万事休すかと思いきや、2打目を林の中からグリーンを狙うギャンブルショットに成功して2オンしてバーディーをもぎ取った。
その時点で16アンダーの首位となり、クラブハウスリーダーとして後続を待つことになった。最後はベガスが18番でバーディーを奪い17アンダーとして逃げ切り、7年ぶりとなる通算4勝目を挙げたが、プレーオフになっていれば勢いのあるグレイザーマンにチャンスがあったかもしれない。
次戦のレギュラーツアー最終戦のウィンダム選手権では、グレイザーマンは2日目に60で回り2位タイと優勝争いに絡むと、3日目終了時点で2位に2打差をつけて首位に立った。最終ラウンドも前半で4アンダーと好調で、独走して優勝する勢いだったが、後半に悪夢が待っていた。
13番のパー4で91ヤードのセカンドショットを直接カップインしてイーグルを取ったものの、続く14番でティーショットをOBとし、そのホールを+4としてしまった。
15番のバーディーで気を取り直したかと思ったが、16番のパー3で4パットと崩れ、終わってみれば首位に2打差の2位とまさかの逆転負けを喫してしまったのだ。
私は現地で取材をしていたが、ウィンダム選手権は荒天の影響で日程がかなり乱れていた。
最終日は2日目の残りのラウンドを終えた後に3日目と4日目のプレーをする強行日程となり、決勝に進んだ選手全員が1日に36ホール以上をプレーしなければならなかった。グレイザーマンは一時21アンダーと独走態勢に入っていたものの、疲労と初優勝へのプレッシャーから冷静さを保てなかったのかもしれない。
グレイザーマンは優勝を逃した原因となった4パットがよほど悔しかったのか、最終日のラウンドが日没まで行われていたのにもかかわらず、翌日の正午には次戦のフェデックスセントジュード選手権が行われるTPCサウスウィンドに姿を見せ、パッティング練習を繰り返す姿が印象的だった。
手首の手術から巻き返し、PGAツアー昇格をつかむ
2024年の今年29歳になるグレイザーマンは日本のファンにはあまりなじみがない選手かもしれない。グレイザーマンは2017年にプロに転向し、2024年下部ツアーから昇格したばかりのルーキーだが、2年前には手首を負傷して手術を受けて引退を考えたこともあるという苦労人だ。
彼の両親は旧ソ連から10代の頃に米国へ逃れてきた難民で、大学時代に知り合ったという。グレイザーマン本人は米国生まれだが、英語とロシア語が話せるそうだ。
彼は10代の頃からジュニアの大会で優勝するなど活躍していたが、そのような実績を持つ数多くの才能が集まるのがプロの厳しい世界。
挫折も経験しながらようやくつかんだPGAツアー1年目で2位が2回、プレーオフに進出してシード権を獲得したのはルーキーとして上出来な部類だろう。
グレイザーマンは日本で開催されるZOZOチャンピオンシップに参戦予定なので注目してみてほしい。
コンパクトなトップに必要な3つのポイント
グレイザーマンのスイングの特徴はコンパクトなスイングだ。その一方で、飛距離は平均312ヤードとPGAツアーで10位の飛距離を誇る。
コンパクトなトップを作るときに重要なポイントが3つある。それは腕の使い方と切り返しのタイミング、そして下半身の使い方だ。
バックスイングで腕を振るとコンパクトなトップは作れないので、腕の運動量を減らして体と腕をシンクロさせる必要がある。
切り返しのタイミングが遅いとトップが大きくなる傾向があるので、バックスイングを開始したらできるだけ早く切り返し動作を行うといいだろう。そして、切り返しでは下半身をしっかり踏み込むことで、全身を使った力強いスイングで飛距離を伸ばすことができる。
コンパクトなスイングはどちらかといえば筋力があり、飛距離よりも方向性を重視したいゴルファーに向いている。自分の適性を見極めたうえで取り入れてほしい。
動画解説はコチラ
吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。