吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。今回は全米オープンでローリー・マキロイとの接戦を制したブライソン・デシャンボーに学ぶ、地面反力を使うための左足の正しいタイミングについて紹介する。
マキロイとの接戦を制したデシャンボー
2024年の全米オープンは、ブライソン・デシャンボーとローリー・マキロイによる一進一退の汗握る終盤戦となった。
結果は、最終ホールで見事なバンカーショットからパーセーブをしたデシャンボーがマキロイを振り切って、4年ぶりに大会を制した。
LIVゴルフに移籍して以来、メジャートーナメント以外では活躍する姿をあまり見ることがなくなったデシャンボーだが、今なおトップの実力を保持していることを多くのファンにアピールした。
今回の全米オープンは、初日から上位陣が目まぐるしく入れ替わる展開だった。
初日にマキロイとパトリック・キャントレーが首位に立つが、2日目は2人ともスコアを落として、スウェーデンの新鋭、ルドビグ・オーバーグがトップに。
しかし、3日目にはオーバーグも失速して、デシャンボーがキャントレー、マキロイらに3打差をつけて首位に立った。
これほど各選手の浮き沈みが激しかったのは、2024年の会場が超難コースで知られるパインハースト・リゾート&CCパインハーストNo.2コースだったことも一因だろう。
グリーンにはアンジュレーションが多く、「亀の甲羅」と呼ばれる外側に向かって傾斜する形状によって落としどころを間違うとボールはグリーン外に転がり落ちてしまう。グリーンにたどりつくまでも、フェアウェイを外せば砂地が待ち受けている。
そのうえ、今大会では500ヤードを超えるパー4が3ホールもあった。まさに常に緊張と我慢を強いられ、気を休めることができないコースと言っていいだろう。
そんな難コースでデシャンボーは初日から67、69、67とアンダーパーを続けて首位に立ったのだが、最終日は思うようにいかなかった。
前半1ボギー、後半も2バーディー2ボギーとスコアを伸ばせず、そこへ追い上げてきたのがマキロイだった。
マキロイは前半で1つスコアを伸ばし、後半の10番でバーディーを奪ってデシャンボーに並ぶと、12番、13番のバーディーで2打差をつけた。
10年振りのメジャー制覇をほぼ手中にしたかと思われたが、15番からの残り4ホールでまさかの失速。3ボギーでデシャンボーに再逆転を許してしまった。
しかも、16番のパーパットは1m弱、18番も1.2mのパーパットを外してしまったのだから、悔やんでも悔やみきれないだろう。デシャンボーの優勝を見届けると、取材に対応せず無言で会場から立ち去った気持ちも痛いほどわかる。
一方のデシャンボーは我慢のゴルフが続く一日だったが、大崩れせず辛抱強くプレーしたのが勝利につながった。
特に最終18番は、ティーショットを左の荒れ地に入れてしまい、第2打もバンカーに入ってしまう。
しかし、3打目のバンカーショットは本人も「人生最高のショットだった」と振り返るほど。ピンそば約1.2mに寄せると、マキロイとは対照的にパーパットをしっかりとカップに沈めた。
勝利を決めた瞬間の彼の雄たけびと、ギャラリーの熱狂的な声援が印象的だった。
一方、日本勢では松山英樹が6位に入った。最近、復調の兆しが見えてきていた松山は世界ランキングも12位まで上げてきた。パリ五輪でも活躍が期待できるだろう。
今は亡き憧れの選手との縁
パインハーストNo.2はデシャンボーにとって特別な場所でもある。彼が子供の頃から憧れていたペイン・スチュワートが1999年に全米オープンを制したのもこの会場だった。
デシャンボーはペイン・スチュワートと同じサザン・メソジスト大学(SMU)に進学し、以前かぶっていたハンチング帽はスチュワートのトレードマークだったものだ。ちなみに今はLIVとの契約でチームロゴが入ったキャップをかぶらなければならないそう。
表彰式では数年前に亡くなった父に優勝を報告したあと「ペイン・スチュワートにもこの勝利を捧げます」と感慨深げに語った。
スチュワートが2度目の全米オープン勝利を挙げたパインハーストNo.2で、同じようにデシャンボーが2つ目の全米オープンタイトルを手にしたのは何かの縁を感じる。
今回の優勝でデシャンボーの変貌ぶりを指摘する論調もあった。
もともとデシャンボーはこだわりが強く、わが道を行く選手だった。アイアンの長さがすべて同じであることは有名で、飛距離を伸ばすために大胆な肉体改造をしたことでも知られる。
「マッドサイエンティスト」と呼ばれたこともあり、独自の理論を貫きとおすことから、誤解されやすい面があった。
筆者はデシャンボーとは2017年からの付き合いだが、その頃から練習中にギャラリーと話をしたり、観客の子供を呼び寄せてサイン入りグローブをプレゼントしたりするなど、ファンサービスは他の選手よりも積極的に行っていた印象がある。
デシャンボーに対して気難しい印象があるかもしれないが、試合会場では遠くにいても向こうからあいさつをしてくれる気さくな性格で、スイングに関する話をしてもいつも丁寧に受け答えをしてくれていた。
確かに議論好きで、コーチや研究者と、とことん話し合いをしていたが、それは上達したいという意欲によるもので、その熱意や知識欲にはいつも驚かされた。
最新のティーチングを研究し、自らに取り入れる取捨選択ができるクレバーさと、飽くなき探究心が今回の全米オープンの勝利を引き寄せたに違いない。
地面反力のポイントは左足を踏み込むタイミング
屈指の飛距離を誇ることで知られるデシャンボーだが、もともとは方向性を重視するスイングをしていた。
そのスイング改革は2014年にゴルフバイオメカニクスの権威、ヤン・フー・クォン教授の研究室でスイング分析を受け、地面反力の数値をもとにスイングに関する指導を受けたことから始まる。
クォン教授の研究室にいたクリス・コモの指導により、地面反力を使った飛距離アップを実現して、最初の全米オープンのタイトルを手にした。
飛距離アップに関しては肉体改造ばかりが注目されるが、スイングを大幅に変えて飛距離を伸ばしていることを忘れてはいけない。
地面反力をスイングに生かすには、左足を踏み込んだ後、地面から受けた力が上に向かう「抜重」が欠かせない。しかし、アマチュアゴルファーの多くは左足に体重をかけて地面を押し続けたままボールを打っている人が多い。
その原因は左足を踏み込むタイミングが遅いためだ。
左足を踏み込み始める適切なタイミングは、バックスイングで左腕が地面と平行になったあたり。早めに感じるかもしれないが、このタイミングで左足を踏み込むことで、惰性で上がる腕がトップの位置に達したときに切り返すことができるようになる。
左足を踏み込むタイミングをうまくつかめない人は、ヒールアップを意識してみてほしい。
バックスイングで左足のかかとを上げて、ダウンスイングでかかとを下ろしながら左足を踏み込みタイミングをつかむようにするといいだろう。
かかとの上げ下げを使って、左足を踏み込むタイミングをマスターできれば、アマチュアゴルファーでも地面反力を使った力強いスイングができるようになるはずだ。
動画解説はコチラ
吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。