吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。今回はシニアの醍醐味を再確認できたワールドチャンピオンズカップに見る、クローグリップについて。
レジェンドらによる地域別対抗戦
12月は年末ということもありイベント色が強まるものだが、米ゴルフ界でもイベント要素を含んだチーム戦が盛んにおこなわれている。歴代のメジャーチャンピオンやザ・プレーヤーズ選手権の優勝者が子供や孫とタッグを組み争うPNC選手権では、タイガー・ウッズ親子が出場して話題となった。
ウッズはツアー復帰に向けて順調に調整が進んでいるようで、息子のチャーリー君とのコンビも息が合っており、5位の成績をおさめた。大会は25アンダーでベルンハルト・ランガー親子が大会通算5勝目を飾ったが、どのペアも勝敗よりも家族で特別な時間を過ごすことができたことに感謝するコメントが多かったのが印象に残った。
例年行われるPNC選手権に加え、2023年から新たに2つのチーム戦が始まり、ファンを大いに楽しませてくれることになった。
2022年まではPGAツアー選手同士のダブルス競技が行われていたが、2023年は1999年以来の男女混合チームの大会が復活した。PGAツアーとLPGAツアー選手がペアとなり、3日間でさまざまなフォーマットで競う「グラントソーントン招待」が開催され、オーストラリア出身のジェイソン・デイとニュージーランド国籍のリディア・コの元世界ランク1位同士の「チームオセアニア」が初代優勝チームとなり話題を集めた。
もう一つは、米シニアツアーのPGAツアーチャンピオンズの選手たちが米国選抜、欧州選抜、世界選抜に分かれて7名ずつで戦うチーム対抗戦、ワールドチャンピオンズカップだ。
ワールドチャンピオンズカップは3日間の日程で、初日と2日目はダブルス、最終日はシングルスで獲得したポイント数を競う。ルールは変則的で、各ホールにポイントが与えられ、最終的に最も多く合計ポイントを獲得したチームが勝利するという、マッチプレーとストロークプレーを融合したようなフォーマットとなっている。
ポイント配分は、単独1位の選手には2ポイント、単独2位選手には1ポイントというのが基本だが、2人が1位タイの場合は1.5ポイント、2位タイの場合は0.5となり、3人が同スコアの場合は1ポイントずつ分け合うことになる。このため、2ポイント獲得を狙うのはもちろんだが、最悪でも0.5ポイントを獲得するという粘りも欠かせない。
一方、出場選手もそうそうたる顔ぶれで、各チームのキャプテンは米国選抜がジム・フューリック、欧州選抜がダレン・クラーク、世界選抜がアーニー・エルスと、ライダーカップやプレジデンツカップでキャプテンを務めたレジェンドたちが選ばれた。ほかにもコリン・モンゴメリーやジャスティン・レナードなど、ライダーカップやプレジデンツカップで活躍した選手が多く名を連ねた。
もちろん、2023年シニアツアーで活躍したスティーブ・ストリッカーやベルンハルト・ランガーも出場した。2023年は65歳で全米シニアオープンを制し、歴代最多の46勝を挙げたランガーは最終日午後のシングルスで11.5ポイントを獲得し、全体的に振るわなかった欧州勢のなかで気を吐いた。
出場した選手のなかで、今シーズン最も活躍した選手と言えば、56歳のストリッカーだ。今シーズンのシニアツアーでは16試合に出場し、優勝6回、2位5回という圧倒的な成績を残し、早々に初の年間王者のタイトル獲得を決めた。
ストリッカーは2021年秋のライダーカップでキャプテンを務めた後、原因不明の発熱や倦怠感に見舞われ入院し、「現代の医学では解明できない難病」と診断された。入退院を繰り返し選手生命も危ぶまれたが、すっかり健康を取り戻して元の輝きを取り戻した。
シニアからの再出発で脚光を浴びた選手が活躍
初めて開催された今大会では、初日から順調にポイントを重ねてきた米国選抜と、初日出遅れたものの最終日を0.5ポイントリードして迎えた世界選抜の争いが最終ホールまでもつれこむ、目が離せない展開となった。
最終ホールでは、0.5ポイントを追う世界選抜のレディーフ・グーセンがセカンドショットを右の池に入れてしまい勝負が決した。終盤での米国選抜の怒涛の追い上げに世界選抜が逃げ切ることができず、最終的に2ポイント差で米国選抜が勝利した。
特に追い上げに貢献したのがビリー・アンドレ―ドだった。当初、プレーをしない副キャプテンとして選ばれたアンドレードだったが、キャプテンのフューリックが背中の故障でプレーできなくなったため、急遽代役を務めることになった。
アンドレ―ドは今シーズン賞金ランク33位と今大会では最下位の選手だったが、ランク1位のストリッカーとペアを組み、ストリッカーがチャンスにつけたパットを決めるなど活躍した。シングルスでは同組のビジェイ・シンやミゲル・アンヒル・ヒメネスを抑えてポイントを重ねた。
アンドレードはこれまで米国を代表するライダーカップやプレジデンツカップには縁がなく、マッチプレーは学生以来だったという。そんなプレッシャーを跳ねのけて活躍したのは見事としか言いようがない。アンドレードだけではなく、米国選抜のブレッド・クイグリーや世界選抜のスティーブン・アルカーも国や地域を代表する試合には縁がなく、シニア入りしてから脚光を浴びた選手だ。
このように米シニアツアーで活躍しているのは、PGAツアーでエリートだった選手だけではない。シニアから再スターをして活躍できることも、ゴルフというスポーツの奥深さといえるだろう。表彰式で誰よりも勝利を喜ぶアンドレードの姿に、シニアツアーの面白さを改めて感じた。
クローグリップが今後の主流か
今大会では、アンドレードやエルス、K・J・チョイといった多くの選手がクローグリップでパッティングしていた。特にアンドレードやチョイは、シングルスのプレッシャーのかかる場面でクラッチパットをいくつも決めていたが、クローグリップを採用していたことが功を奏していたように思う。
数年前から男女問わず採用する選手が増えているクローグリップだが、フォローサイドで右手をスムーズに動かすことができるメリットがある。それに加え、バックストロークで力が入ってしまう人もスムーズにパターを引くことができる利点がある。
今回はクローグリップのポイントについて解説していきたい。クローとは、英語でタカなどのかぎ爪の意味で、かぎ爪で物をつかむように、右の指先だけでパターを持つ。右手に余分な力が入るのを防ぐ効果があるので、右手の使い過ぎに悩むアマチュアにもおすすめだ。
クローグリップと言っても、右の手のひらを使わずに指先だけで持つというだけで、プロの間でも人それぞれ形が違う。大きく分けると、右手を上からあてがう方法と下から添える方法の2つに分けられる。どちらも左手は通常のグリップで握り、後から右手を添える。右手は決してクラブを持つのではなく、指先で支えるような感覚だ。
右手をどのようなスタイルにするかは、自分のストロークのタイプで決めるといい。
パッティングの際にプッシュのミスが出やすい人は、フェースが開いて当たる傾向があるので、フェースを閉じながらスムーズにフォローを出すことができる上からあてがうスタイルがいいだろう。
一方、下から握る方法は、フェースが閉じてひっかけてしまう人に向いている。下から握るスタイルだとフェースの開閉が少なく、まっすぐヘッドを出しやすくなる。
パッティングでどうしても右手に力がはいってしまうという人は、一度クローグリップを試してみてほしい。
動画解説はコチラ
吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。