FASHION

2025.10.31

ルイ・ヴィトン、サンローラン、ディオール…2026春夏スタイル詳報【パリ編】

ジャケットに見る、2026 Spring&Summerファッションウィーク詳報。新たなディレクターの登場と確立されたスタイル、パリ編。【特集 大人のジャケットスタイル】

2026春夏ファッションウィーク詳報【パリ編】

1.ルイ・ヴィトン|男性服の可能性を広げるパリからインドへの旅

メンズ クリエイティブ・ディレクター、ファレル・ウィリアムスが現在のインドの装いにおけるサルトリアルの文化を固有のダンディズムに変換したルイ・ヴィトン。パリからインドへの旅をインスピレーションに、軽やかに流れるソフトなテーラードジャケット、ビターなブラウンデニム、影のあるボルドーカラーのセットアップやブルゾン、ダークブラウンのチェスターコートなどで表現されている。ショー会場にはポンピドゥー・センターを背景にした舞台セットが設置され、ランウェイの床にはボードゲーム「蛇と梯子」が描かれた。

ルイ・ヴィトン

2.サンローラン|自然を想像させる色彩表現。軽快で精緻なシルエット

サンローランは、建築家・安藤忠雄が手がけた美術館、ブルス・ドゥ・コメルスで発表。水盤に白磁のボウルが浮かぶ仏アーティスト、セレスト・ブルシエ=ムジュノのインスタレーション「クリナメン」の円周がショーのランウェイとなった。サンド、ソルト、ペールオークル、ドライモス、プールブルーといった、自然豊かな配色が彩る。身体から浮遊するようなシルエットとシルクやナイロンなどの薄く軽やかな素材が特徴的で、極薄のシャツとショートパンツ、風になびくブルゾン、しなやかな素材のスーツなど、端正なスタイルが提案されていた。

サンローラン

3.ディオール|新たな時代の幕開けはメゾンの過去と現在の共鳴から

新クリエイティブ ディレクター、ジョナサン・アンダーソンによるファーストコレクションとなった今シーズン。メゾンの長い歴史の中で育まれた文脈と言語を解読し、過去と現在を交差させ、新たなるスタイルを構築している。出自であるアイルランドのドネガルツイードを「バー」ジャケットに、サイドループ付きのハーフカーゴパンツは偉大なアーカイブドレスのひとつ「デルフト」の構造を紐解いて再構築されているのが好例。色とりどりのケーブルニットや夏に最適なデニムなどプレッピーなアイテムも多く並ぶ。日常に根差しながら、フォーマルを再文脈化させ、定義づけできないスタイルを描写し、ディオールの新たな時代を堂々と打ちだした。

ディオール

4.エルメス|夏の街にふさわしい軽くも深みのある装い

エルメスは、都会の夏を想起させる爽やかな装いを提案。カラーパレットは、コーヒーやブラウンを基調に、ミントグリーンやバニラなどの明るい色を差しこむ。ソフトなレザーは多様なスタイルで展開され、繊細な職人技術によるオープンワークのブルゾンやパンツに仕立てられている。馬具が描かれたスカーフはスエードでつくられ、フリンジスカーフつきのシルクシャツも日常的ながら実に絢爛。イブニングウェアはブラックの代わりにグレーやサンドカラーを用い、シャンタンのダブルジャケットは上質でありながら気軽に羽織ることができる。

エルメス

5.アミリ|架空のホテルで送る優雅なひと時

アミリの舞台は、文化と人生が交差するホテルでの一日。空想のホテル「シャトー・アミリ」は、映画や音楽、芸術を生む個性豊かな人々を結びつける場。ショー会場には屋内庭園と噴水を設置し、洋服に関してはモノグラム柄の緩やかなスモーキングジャケット、デコラティブなブルゾン、流れるような仕立てのガウンなど、リラックス感と格式という対極の要素を融合。ミント、ラズベリー、ペールブルーなど、日焼けを想起させる楽観的な配色が彩りを添え、フェザーや複雑なビーズワークがクラフトマンシップを際立たせる。

アミリ

6.ドリス ヴァン ノッテン|コンラストを随所に利かせ、斬味の鋭いコレクションに

ジュリアン・クロスナーによる初のメンズコレクションとなったドリス ヴァン ノッテン。フォーマルとカジュアルを融合させ、伝統的ながら大胆なワードローブを再構築。フェミニンとマスキュリンの要素をかけ合わせ、テーラリングにスポーティなシルエットを重ねた。抽象的な花柄プリントやジャカード、シルクのジョッキーストライプが象徴的で、スパングルやビーズの刺繍がドローストリングショーツやルーズトップに煌めく。カマーバンドを再定義しルックに取り入れ、腰にパレオを巻いたスタイルなど、レイヤーのある着こなしが冴える。

ドリス ヴァン ノッテン

7.カラー|ブランドのDNAにアクセントを加える

新たにクリエイティブディレクターに就任した堀内太郎が手がけるカラーのコレクション。常に変容して流れていく「時間」そのものをインスピレーション源に、中世のテーラード、ジャケット、コルセット、自然、アウトドア、近未来などから着想を得ている。どれもが計算尽くされた構築的な設計となっており、豊富なアクセントカラーをエッセンスに抽象的で、感覚的だったブランドのDNAに意味や理由など理知的な要素を加えた。さらに、シックなスタイルに布の揺らめきを加えることで、よく服の動きから日常を意識させていた。

カラー

8.コム デ ギャルソン オム・プリュス|スーツの意味を拡張。力強い存在感を発揮させる

コム デ ギャルソン オム・プリュスのテーマは「Not Suits, But Suits」。テーラリングを軸にしながらも、服地、装飾、設計、構造、そしてスタイルを混沌としながら溶け合わせ、制限や特定の枠組みを飛び越えた。圧縮した皺加工のジャケットにはフェミニンなブラウス、スカート調のボトムスを合わせるなど、定義されるなかで失いそうになる要素を掻き集め、取りこむことで力強い存在感を発揮。生地を大胆に折り曲げていたり、異なる生地を重ねて二重にしたデザインのラペルも構築的なジャケットの造形によって緊張感を生んだ。

コム デ ギャルソン オム・プリュス

9.ジュンヤ ワタナベ マン|温故知新を起点にしたユニークな対象の転換

「古いのに新しいと感じるもの、また古いものを再現する過程で生まれた新しいもの」に焦点を当てたジュンヤ ワタナベ マン。2004-05年秋冬にて発表されたアンティークのインテリアファブリックから着想を得たジャカード、風景画を表現したタペストリー、トーベ・ヤンソンの肖像画や、エドヴァルド・ムンク、エリザベス・ペイトンの描く人物画、牧歌的な家のモチーフや動物の絵柄が描かれたニットなど、観る、使う対象を着る対象に転換させるという視点のずらし方がユニークであり、バリエーション豊かな創作に繋がっていた。

ジュンヤ ワタナベ マン

10.ヨウジヤマモト|爽やかさに現れる環境問題への意識

環境問題への関心と危惧、特に海が影響を受けている現状を意識して、コレクションを展開したヨウジヤマモト。「LONG HOT SUMMER」「NO MORE WARS」といったメッセージのほか、世界中で続く猛暑に合わせ、ジャケットシャツ、クロップドパンツ、そしてサンダルなど爽やかなスタイルが見受けられる。爽やかとはいうものの、抽象化されたステンドグラスや万華鏡のような鮮烈な色使いのグラフィックは刺激的で、揺れ動き、光の差しこむ水面を思わせるブルーグラデーションのテキスタイルが、海の世界観をイメージさせた。

ヨウジヤマモト

11.リック・オウエンス|荘厳な神殿で披露された身体性を強調したデザイン

今季もパリの現代美術館パレ・ド・トーキョーで発表。水の上に鉄骨の足場が設けられ、モデルがその上を歩いた後に、水の中に降りて潜ったり、噴水が上がるなかで逆さ吊りになるなど、スペクタクルな演出となった。パリ市立ガリエラ美術館で開催中のリック・オウエンス回顧展「TEMPLE OF LOVE」と連動した主題は「TEMPLE」。イタリア・トスカーナ州サンタクローチェ・スッラルノでつくられた植物タンニンなめしのレザージャケットは、切り裂かれたフリンジ、スパイク、ジッパーが施されて、彫刻的なフォルムと大胆に合わさる。

リック・オウエンス

12.アイム メン|布に命を与える伝統技術と先端技術の融合

陶芸家である加守田章二の作品を「衣服にしてまといたい」というアイデアからスタートしたアイム メンは、「一枚の布」というブランド哲学と加守田の作品の多面的なニュアンスを融合し、多彩な糸や織りの構造、テクノロジーをかけ合わせて製作した重層的なテキスタイルを主役にしたジャケットやアイテムで構成。会場には、マットな朱と白い波模様のコントラストが印象的な作品「彩色 壺」を表現したテキスタイル「EARTH」の布地が天井から吊るされ、全身を同生地に包みこみ、布が生きているかのようなパフォーマンスが披露された。

アイム メン

13.オーラリー|服地のニュアンスで感じる季節の境界線や移ろい

夏の野外での発表にふさわしい上質な素材と柔らかい色彩を重ねることで「季節の境界線」や「季節の移ろい」が表現されている。オーラリーの常套句である素材へのこだわりをそのままに、ウール、カシミア、シルクなどを重ねたレイヤードスタイルや、スエード、ヘアカーフなどの柔らかなレザージャケット、職人による手縫いのディテールが特徴的。カラーパレットは、グレージュやストーングレーなどのニュアンスカラーに、マスタードイエローやバターのような色をアクセントに用いて、春の光や風を感じさせる空気感となっていた。

オーラリー

14.キコ・コスタディノフ|架空の世界を描きながら素材に焦点を当てる

「架空の島にある小さな町での1日の流れ」を表現したキコ・コスタディノフ。どこか現実から離れた、外の世界の潮流や常識に捉われない場所での暑い夏の日常がイメージソース。ツイルやメッシュ、レザー、コットンといったテキスタイル選びやその調和、そしてそれらを組み合わせのコントラストがあるジャケットが特徴的であった。日本製のストーンウォッシュデニム、読谷山焼の釉薬から想を得たオーバーダイ加工のジャージーなど経年変化を意識しているからか、日本のノスタルジックなムードを漂わせている。

キコ・コスタディノフ

15.メゾン ミハラヤスヒロ|装いと人間の本質的な結びつきを追求する

人間の表層と内面の二面性に焦点を当て、装いにおける皮肉と愛情を注ぎ、違和感を織り交ぜながら「普通」を軸にしたメゾン ミハラヤスヒロ。イメージとして引用されたのは、三原康裕自身が1990年代に初めて製作したデニムジャケットとMA-1を前後でドッキングしたアウター。ワークウェアとミリタリーの本来の意味を解体することで、装いと人間の関係性の本質を見出そうと試みている。

メゾン ミハラヤスヒロ

16.ダブレット|創作だからこそ伝わる「いただきます」の奥深さ

日本の伝統的な食前の挨拶「いただきます」に込められた感謝と敬意のマインドをダブレットは装いに変換させた。食物連鎖と生命の循環への思いを、サステナブルな素材などで表現。モリトが開発した日本内で回収された廃漁網を100%使用してリサイクルされた糸であるミューロンや、卵の殻の内側にある薄く白い膜「卵殻膜」から生まれた新繊維ovoveilなどの素材を活用した。

ダブレット

【特集 大人のジャケットスタイル】

この記事はGOETHE 2025年11月号「特集:スタイルのあるジャケット」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=関口 究

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