照りつける日差しの下でも、季節は確かに進んでいる。ブランドの世界観を映すスタイリッシュな新作が、待ち遠しい秋の装いに新たな視点を与えてくれる。人気スタイリスト・野口強による連載「The character of G」。

1.サンローラン|クチュール的な要素を盛りこんだ挑発的かつスリリングな美学
今季、サンローランは、「耽美と知性」「構築と流動性」といった両義性を軸に、ブランドの本質を探求。写真家ロバート・メイプルソープからのインスピレーションを通じて、クチュールのエッセンスが息づくフォルムやシルエットが出色。

2.トム フォード|モードな躍動感と内に秘めた強さが新たな次元で結実
ハイダー・アッカーマンが手がけるトム フォードの新作は、精度・力強さ・純粋さを柱に、洗練された素材と構築美でポエティックな男性像を抽出。映画『アメリカン・サイコ』の冷徹な美とシャープさに満ちた世界観が、コレクション全体に貫かれているのも強く、印象的だ。

3.ドルチェ&ガッバーナ|パパラッチの視線と光が照らす日常と非日常のエレガンス
ドルチェ&ガッバーナは、ショーのランウェイを「デイタイム」と「イブニング」の二部構成で演出し、エレガントな男性像を多面的に描いた。

4.プラダ|自由な発想で導かれたアイテムが意外性のある魅力を放つ
今季のプラダは、人間が感じるままに選ぶ“本能”にフォーカス。ロマンスや情熱、そして装うことへの衝動を、クリーンな洗練のなかに閉じこめ、内面から自然とにじみ出るエレガンスを再定義したコレクションが秀逸。ニットに配されたスタッズやフリンジも、意外性のある魅力を放ち、ドラマティックな印象を残す。

5.ドリス ヴァン ノッテン|相反する美意識を再解釈し時代の狭間にある男性像を描く
ドリス ヴァン ノッテンのコレクションの核となるのは“時代を超えたエレガンスと反抗的な美学の融合”。ウイリアム・S・バロウズの作品から着想を得た、退廃的なムードと耽美でナイーブな感性が交差するスタイルが絶妙だ。甘さと荒々しさの混在のバランスも白眉。

6.ヴァレンティノ|ウィットと職人技を融合させた前衛的で濃密な世界観を着る
柔らかなビスコースシルクベルベットのガウンに配されているのは、ビーズ刺繍やスパンコールで彩られた極彩色の花々たち。知的で前衛的な美学を、卓越したテクニックで仕上げた今季のヴァレンティノも、アレッサンドロ・ミケーレならではの濃密な世界観は健在だ。

7.ルイ・ヴィトン|多彩なカルチャーをリミックスしたストリート×ダンディズム
ルイ・ヴィトン メンズ クリエイティブ・ディレクターのファレル・ウィリアムスとNIGOの友情を核にした、過去から未来を見つめるコレクション。ワークウェア、ストリートカルチャー、アーカイブなどが複層的に交錯し、普遍的なニュアンスを表現。手持ちのアイテムに合わせやすい鮮度の高さも秀逸。

8.エルメス|素材美と精緻な技を駆使した洗練のスタイリングに刮目
毛足の長いモヘヤ繊維を編み上げて仕立てた高密度のモヘヤファーコートとジップアップフロントのレザージレのスタイリングは、軽快さと重厚感、クラフトマンシップと機能性が見事に調和した、今季のエルメスのエッセンスを凝縮したような代表的なルック。精緻なシルエットも、より精度を増し、健在。
