今こそ日本ブランドを着たいと思わせる、2025-26年秋冬のパリメンズコレクションをレポートする。【特集 贅沢な服】

1.サカイ|大胆で特徴的なボリューム感を、素材使いとシルエットで自在に操る
世界的な名作「かいじゅうたちのいるところ」を着想としたサカイの今シーズンは、ボリューム感溢れるファーやボア素材が特徴的。絶妙な丈感のミリタリーブルゾンの首周り、スリーブや裾に用いるだけではなく、随所にニットを駆使したジャケットでもファーを切り替え、ダブルコートの襟にもシアリングを取り入れているなど、豊富な素材と量感のあるシルエットやレイヤードがマッチしている。特に、襟にファーをあしらったショート丈のブルゾンは、裾に大胆なタックを取ることでフォルムを広げ、大人の魅力をさらに引きだしている。

2.カラー|阿部潤一の最後のショー。それでも不変的なレイヤード
阿部潤一氏が、今回のコレクションにおいてカラーのデザイナーとして表舞台から去るという衝撃的な発表の直後に披露されたランウェイ。ふたつの時間軸をひとつのピースに共存させたようなアイテムが目を惹く。中世を想起させるようなクラシカルなディテールや、長年に渡って使いこまれたような加工がモダンなピースと自然に溶けこむ。ボアベストやジレなどを重ねた装飾的なレイヤードスタイルが最後のコレクションでも今までと変わらずに独特な奥行きを感じさせており、それぞれの質感を活かした豊かな表情を作りだしている。

3.コム デ ギャルソン|単なる反戦メッセージだけではない。洋服を通して気づくこと、考えること
反戦的なメッセージを掲げたコム デ ギャルソン・オム プリュス。歴史的な軍服は豊かな色彩のファブリックとドッキングされたり、真鍮ボタンが留められたりなど美しくも破壊的にコラージュ。マルチジップやキルトなどあらゆる文化的な装いの象徴もひとつに。これは単なる1シーズンのコレクションではなく、強烈なメッセージであり、洋服を通した語り継がれる創作であり、表現するという態度である。そのようなデザイナーの意識を着ることは贅沢であるのと同時に、気づきや考えることを止めさせない芸術の原理的な営みである。

4.ジュンヤ ワタナベ マン|着たい、と思わせるリアリティーのある渋さ
ジュンヤ ワタナベ マンはフィルソンとの協業を全面的に打ちだした。マッキーノフルーザージャケットの解体再構築がメインであり、温もりを感じさせるキルティングやパファーチェックなど、いずれも暖かくリラックス感のある出で立ちに。また、大胆な素材の切り替えやパッチワークにも目を奪われる。近い領域でありながらも異なる文脈をたどってきたアウトドアやワーク、カジュアルウェアを巧みに操り、独特の渋味を生む。コレクションとしてはよいが、オケージョンが想像できない洋服が多いなかで、リアルに着るという渋さを貫く強さがある。

5.ヨウジヤマモト|全編にわたる中綿素材が、歳を重ねる格好よさを際立たせる
ジャケットやコート、シャツ、パンツにいたるまで、全編にわたって徹底的にパファーとキルティングといった中綿素材を取り入れている。ヨウジヤマモト流のダウンはユースからシニアまで幅広い層の心を摑むに違いない。ランウェイではさまざまな世代の男たちが登場。そのなかでも、ベテランたちの姿に歳を取る格好よさを感じさせる。永遠は決して手に入るものでもないし、時の流れに抗うことはできない。しかし世代毎の格好よさがあって然るべきだし、それらを肯定してくれるようなコレクションとなっている。

6.オーラリー|ノスタルジックなムードが洗練させつつも遊び心を生む
ノスタルジックなムードが着想のオーラリー。薄手のニットのクルーネックやカーディガンは着古したかのようなディテールを取り入れ、ツイードのパンツやモールスキンのダブルコートはダイレクトな温かみを直感させる。ヴィンテージ感のある素材感もアクセントに。また、タイドアップしているスーツのセットアップにレザーやファーを重ね着するスタイルは新たなトレンドを予感させる。オーセンティックな路線をひた走るも、洗練させたままソリッドになりすぎずに遊ぶ。この大人の余裕こそが次なる贅沢のヒントになるかもしれない。

7.イッセイ ミヤケ|世界で唯一の素材を装う、衣服を通した稀有な体験
イッセイ ミヤケの創業者である三宅一生の「一枚の布」という考え方を、男性の身体という視点から捉え直してゆくブランドとして2021年にスタートしたアイム メン初のショー。人工皮革スエードに、複合繊維のボアを張り合わせた人工ムートンは独自の素材として登場している。あくまでブルゾンに則しているため奇抜さは抑えられ、デザインの指針は明確でありながら、日本固有の理知的でコンフォータブルな服を着ることができる。そのような贅沢さはコレクションブランドの本質ではななのかもしれない。

8.メゾン ミハラヤスヒロ|徹底したオーバーサイズに裏打ちされた細部へのこだわり
現代的なワードローブ、ワークテイストがベースとメゾン ミハラヤスヒロだが、タイドアップにタックインという大人なスタイルが際立った。ただしオーバーサイズのミリタリーコートやデニムジャケット、ワークブルゾンを合わせる。一見すると着膨れしそうだが、洗練されたスタイルとなっている。それは一着の精度の高さがあってこそ。非対称性や素材加工、ビッグシルエットに対する一貫した姿勢は健在。そのこだわりこそがこのブランドの強みだ。象徴的なスニーカーの新型も登場。トータルコーディネイトとしての抜け目なさも感じさせる。

9.ホワイトマウンテニアリング|往年の建築様式をヒントに、持ち前の術に磨きをかける
1950年代に一世を風靡した、打放しコンクリートやガラス素材や構造をそのまま表現した建築様式として知られるブルータリズムがホワイトマウンテニアリングの着想。マウンテンパーカーやミリタリージャケットなどは、光沢感のあるブラックのナイロン素材を用い、随所にポケットを施すことで、着用時の機能をそのままスタイルにしている。またテクニカル素材や仕様には民族調の柄使いや鮮やかな配色をかけ合わせたり、使い古されたかのような質感のデニムを組み合わせるなど都市と自然の対比と融合も持ち味として発揮している。

10.ダブレット|ユニークなのは物作りだけではない、視点を変えることで見え方が変わる
悪役を意味する「ヴィラン」がテーマのダブレット。だが、単に描写するのではなく、悪役と捉える枠組みに対しての疑問が起点に。視点を変えれば、悪役ではなくなるという場合も。これをデザインに置き換える時、服の認識を改めることから始まる。過剰が懸念される現代において、視点そのものに疑問を持つ。焦燥感のある現代社会にこそ、このような視点が必要なのかもしれない。

11.ターク|飽くなき探求心と徹底した開発。そこにオリジナリティがある
ウールとヘリンボーンやデニムとレオパードなどといった異なる素材同士が文字どおりひとつのファブリックとなる。それらが、シングルブレストジャケットをはじめ、バルカラーコート、ワイドパンツというメンズウェアに変換される。またブルゾンや濃密な刺繍を施したスカジャンはテーラードジャケットが上から下へ変化していくなど、別のアイテムに変容していくのもタークの手法だ。

この記事はGOETHE 2025年5月号「特集:エグゼクティブが着るべき贅沢な服」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら