贅沢な素材使いに復活の兆しを見せる、2025-26年秋冬のミラノメンズコレクションをレポートする。【特集 贅沢な服】

「贅沢」の多様化
近年では、ラグジュアリーの意味が多様化しつつある。絢爛な洋服を着て、パーティーに出向くだけではなく、自然豊かな風景のなかで、親しい人たちと同じ時間を過ごしたり、自分だけの時間を過ごすことも贅沢と捉えることができる。また、進化を続ける現代のデジタル社会に疲弊し、アナログな生活に回帰することが必要な場合もある。
2025-26年秋冬のミラノ、パリメンズコレクションでは、あらゆる贅沢さが見受けられた。
ファーを大胆に使用したドルチェ&ガッバーナ、プラダ。メゾンの矜持を感じさせたルイ・ヴィトン、ディオール。スタイルや概念を体現するエルメス、ランバン。長年の経験があるからこそ生まれる深い男の格好よさを感じさせたヨウジヤマモト、ジュンヤ ワタナベ マン。そして、強烈なメッセージを通して見る者に気づきや考えさせることの大切さを訴えかけたコム デ ギャルソン・オム プリュス。
贅沢の定義はもはや一辺倒で語ることはできず、作る側と同様に、着る側も贅沢さを見つける旅に出ていく。その先にこそ、日常生活を豊かにさせるきっかけがあるのかもしれない。
1.ドルチェ&ガッバーナ|ユーモアのある演出の陰に潜む贅沢なカジュアルとフォーマル
ドルチェ&ガッバーナはランウェイショー全体に贅沢さが溢れた。レッドカーペットが敷かれ、タキシードを着たパパラッチの群衆がカメラを構える。セレブリティに対する好奇の目が着想となった今季はカジュアルとフォーマルのコントラストを熟練した職人技を基軸に巧みに操っている。象徴しているのはファーの使い方。ボリュームのあるコートや大胆に裏地にも使用するなど多彩な組み合わせは、さまざまな問題から停滞しつつあったファー復活の兆しを感じさせた。完璧な仕立てとリラックスムードを両立する魅惑的な男の服は贅沢を体現している。

2.ジョルジオ アルマーニ|身体と洋服の関係を品格とエレガンスで表現
身体と洋服の密接な関係に対する思考を下地に、エレガンスや品格といったキーワードを浮かべ、ジョルジオ アルマーニの自由な優雅さを提案し続ける姿勢は変わらない。テーラーリングや端正なロングコートなど品がありながら、ショルダー部分の落ち感はゆったりとしたシルエットに。なかでも、軽やかなニットとワークパンツの組み合わせに注目したい。ドレッシーだがソフトに、艶やかでありながら温かみのあるスタイルは今の時代を映しだしているようである。グレーや深みのあるレッド、グリーンなどの色味ともマッチしている。

3.プラダ|生々しい素材使いと美しいシルエットが人の本能を掻き立てる
服を着ることを通して人間の本性や本能を追求したプラダは、理性に抑圧されることのない、ありのままの男性像を描写。シャープでボクシーなシングル、ダブルブレストのジャケットやコート、タイトなフィット感のニット、ストレートなスラックス、ボタニカルプリントの柄使いなど全編にわたって装飾性と色彩感を最小限に留める。そのバランス感覚は日常であろうとも失うことはない。身体に呼応するフィット感のある構築性のなかでも「外し」として大ぶりのシアリングを始め、動物の表皮を纏う姿はワイルドでありながら贅沢さを感じさせる。

4.ダンヒル|イギリス調の仕立てとスポーティ要素の組み合わせで新たなスタイルを提案
1930年代にイギリスの紳士服の潮流であるイングリッシュドレープ。これは袖、胸元、裾の生地にドレープを効かせたシルエットであり、英国貴族の心を摑んだとされている。この設計を着想として、ダンヒルはジャケット、コートなどバリエーション豊かに展開。キャメルのウール、艶感のあるベルベットや手仕事によるツイードと多彩なチェック柄。そこにハンティング用の防寒コートであるローデンコートといったスポーツ要素が加えられている。裏地のファーを覗かせる細かなスタイリングの提案も新たな手札として定着している。

5.ゼニア|最高峰のウールで展開されるソフトでクールな大人の男服
人間像や世界観など曖昧な概念を洋服に具現するだけがコレクションブランドの真髄ではない。ゼニアはウールという素材を徹底的に追求している。ヴェリュス・オウレウムというファブリックは、羊毛を原料とする糸の細さで世界記録を誇示。最高峰の毛織物の代名詞であるこの素材をベースに展開された今季は、力強さと心地よさを両立。ジャケットやコートの直線を重視しながらも、抜け感もあり、静謐さこそ真の贅沢といわんばかりの大人な佇まいとなっている。色調は濃淡を使い分けつつも極上の生地との見事な調和を図っている。

この記事はGOETHE 2025年5月号「特集:エグゼクティブが着るべき贅沢な服」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら