デザイナーの意志やこだわりを証明する、2025-26年秋冬のパリメンズコレクションをレポートする。【特集 贅沢な服】

1.ルイ・ヴィトン|豪華絢爛な交錯と細部に込められた威厳
ファレル・ウィリアムスとNIGO®だからこそ構築できるメゾンの気品とカルチャーの交錯は、まさに現代を象徴するものだった。テーラリングは、ボリュームを持たせることでカジュアルに。セットアップのパンツはフレアシルエットで仕上げられている。家紋をモチーフにしたりなど日本的な要素も多く見受けられるが、堅実にタイドアップされたレザーコートやLとV、P(ファレル)とN(NIGO)など記号的な遊びを入れたレザージャケットといった日本視点から見た贅沢さを取り入れながら、細部にルイ・ヴィトンの創作の威厳を感じさせる。

2.ディオール|ストイックな姿勢と美意識、洗練された極上の男性服
メゾンのヘリテージとデザイナーのストイックな姿勢は揺るがない。ディオールはそれらの絶妙なハーモニーを奏でている。ウィメンズのオートクチュールのシルエットをメンズのプレタポルテに転換させ、過去と現在を結びつける時空を超えた洋服は、ドラマチックでエモーショナル。煌びやかな装飾性と男性服の実用性をかけ合わせ、洋服の造形の美しさを強調させる。豊かなボリューム感のワイドパンツ、スカートのように着用したコートスカート、柔らかく身体を包むローブは研ぎ澄まされたムードに華麗さをもたらしている。

3.エルメス|上質な素材感と遊び心、そのなかで輝くスーツスタイル
上質な素材や仕立てに温もりを加え、洗練させたエルメス。チェスターコートやレザージャケットなどのアウターはショルダーをドロップさせた柔らかいシルエットで、ボトムスはソリッドに。着脱可能なブランケット風ライナーを重ねたバルカラーコートからは、品のある遊び心が伝わる。そのなかでも、ショーの中盤に差しかかるタイミングで登場したスーツスタイルに目を奪われる。エルメスというメゾンにおける、さらっとしたシンプルな紳士服の着こなしは贅沢でありながら改めて男性服の格好よさを象徴しているかのようである。

4.ランバン|ブランドの歴史を紐解きモダンなシックを描く
新アーティスティックディレクターのピーター・コッピングはデビューコレクションで創業者、ジャンヌ・ランバンへのオマージュを捧げた。それはウェアだけではなく、シックな佇まいに対する考察を生活全体にまで広げ、モダンに更新。シャープなカッティングのコートと抜け感のある素材感のインナー類の組み合わせ、リラックスとタイトを一着に凝縮させたジャケットなどの絶妙なコントラストはその一例。敢えてタイドアップしないスタイルは、素材と洋服そのもののクオリティがあってこそ。究極のシックを体現したコレクション。

5.アミリ|洋服を着るだけでは味わえないハリウッド文化を描写する
アミリのランウェイは、デザイナーがハリウッドで過ごしている優雅なひと時を体感できるかのようなスケール感。そこで過ごす人々の華やかさと贅沢さ、そして品と色気を兼ね備えた不良のような荒々しさという明確なイメージがある。滑らかで美しいテーラードのシルエットや艶感のある素材で仕立てたワークウェア、そして煌びやかな刺繍といった装飾、大胆で大ぶりのアクセサリーやドレス文化の体現など、その上質さはもちろんではあるが、服を着るだけでは味わうことができないハリウッドの空気感を味わうことができる。

6.リック・オウエンス|誇張されていない強さ、リアリスティックな迫力
昨季とは一転し、過剰な演出も過度に誇張したシルエットもない。だからこそ着たくなる。存在感として誇示せず、強さをさらに加え、リアリスティックな迫力を生む。いい意味で作りたい服を作るスタイルだと思わせたリック・オウエンスのコンフォータブルな服作り。だが、そこには今までどおりの儀式的な世界観は健在。上質な素材と端正な仕立て、細部の緻密さが詰めこまれている。一点物のようなアートピースが披露されることが多いなかで、コレクションラインを着ることができる悦びも一種の贅沢ではないだろうか。

この記事はGOETHE 2025年5月号「特集:エグゼクティブが着るべき贅沢な服」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら