今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、テーム・インパラの新作アルバム『Deadbeat』。

レイヴの桃源郷に誘い、曇り空の影が伸びる
現代サイケロックの最高峰とも称されるテーム・インパラは、オーストラリア出身のケヴィン・パーカーによるソロ・プロジェクト。5年ぶりの新作アルバムは、四つ打ちのダンスビートを大々的に取り入れた。これまでは60年代をルーツにした幻惑的なサウンドで高い評価を集めてきたが、新作はこれまでのドリーミーでサイケデリックな方向性から一転、レイヴカルチャーの高揚感を正面から打ちだした1枚となった。
リード曲「End Of Summer」はミニマルなビートを反復し、陶酔感を高めていく1曲。「Ethereal Connection」も低域の音圧重視のトランス志向のトラックだ。レトロなピアノに甘い歌声が漂う「My Old Ways」やメロウで心地よい「Dracula」など過去のディスコやダンス・ポップ路線に通じる曲もあるが、全般的にはラウンジ向きというより、野外レイヴやクラブの大型サウンドシステムでこそ映える仕上がりになっている。
とはいえ、単に享楽に徹したパーティ・アルバムではない。歌詞には不安や疎外感など曇りある心情がにじむ。踊りながらも迷いや葛藤が徐々に込み上げる。恍惚に誘うサウンドと人生の機微が交差するような、深い味わいを持つアルバムだ。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。

