今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、ザ・ウィークエンドの『HURRY UP TOMORROW』。

三部作の集大成で描いた苦悩と再生
代表曲「Blinding Lights」がSpotify史上最多再生記録となりギネスにも「世界で最も人気のあるアーティスト」に認定されるなど、名実ともに現在の音楽シーンを代表する存在であるザ・ウィークエンド。新作は、『After Hours』(2020年)と『Dawn FM』(2022年)に続く三部作の最終章。そして「この名義での最後の作品」と本人が語る集大成的なアルバムだ。
全22曲、約1時間半というボリュームに、トラヴィス・スコット、プレイボーイ・カルティ、ラナ・デル・レイなど豪華アーティストを数多くフィーチャリングに迎えた本作。甘く伸びやかな彼の歌声は素晴らしく、きらびやかなシンセ・ポップからダークなR&Bまで惹きこまれる楽曲が並ぶ。アニッタを迎えた官能的なダンスナンバー「São Paulo」も聴きどころだ。
アルバムのテーマは彼が直面した精神的な葛藤。成功の反動として訪れた自己破壊的な衝動とそこからの再生が描かれている。2022年のスタジアムライブで突然声が出なくなってしまった経験もその背景にあるという。ダークで憂鬱な、その一方でスター性に満ちた彼の持ち味を存分に発揮した一枚だ。クイーンも彷彿とさせる壮大なバラードの表題曲のラストも感動的。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。