今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、ザ・キュアーの『Songs Of A Lost World』。
ダークな美学を体現する16年ぶりの復活作
伝説のロックバンドの復活作だ。ロバート・スミス率いるザ・キュアーが16年ぶりのアルバム『ソングス・オブ・ア・ロスト・ワールド』をリリースした。結成から46年と長いキャリアを持つバンドだが、新作は古臭さを感じさせない内容。持ち前のダークな美学を突き詰めた1枚に仕上がった。
ʼ80年代のUKでポスト・パンク〜ニューウェーブのムーブメントのなかで脚光を浴びた彼ら。耽美的なギターサウンドはオルタナティブ・ロックやエモやゴスの始祖として、後続に大きな影響を与えた。ラルク・アン・シエルのHYDEなど、日本にも彼らを信奉するアーティストは多い。リバイバルの追い風を受け若い世代からの注目も集めるなか、待望の新作となった。
アルバムは全8曲で49分。大半の曲が5分を超え、「Alone」や「Endsong」など歌が始まるまで数分を要する壮大でドラマティックな楽曲もある。バズりやすいキャッチーさが重視される昨今のポップソングの潮流とは一線を画する重厚感だ。
「死」や「孤独」など、歌のテーマもヘビーなものが中心。しかしその美しく物悲しい音世界には、時代を超える普遍的な魅力がある。リスナーを耽溺させる強い魅惑が宿っている。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。