今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、チャイルディッシュ・ガンビーノの『Bando Stone and The New World』。
今のアメリカを射抜く“鬼才”がたどりついた終着点
これが最後のアルバム。多彩な才能の到達点となる1枚だ。
銃と暴力が蔓延するアメリカ社会の歪みを痛烈に描いた「ディス・イズ・アメリカ」でグラミー賞を受賞したチャイルディッシュ・ガンビーノ。俳優、脚本家、コメディアンなど幅広く活躍するドナルド・グローヴァーは、この「チャイルディッシュ・ガンビーノ」名義での音楽活動を本作で終わらせることを公言している。
集大成となる1枚は、最新型のヒップホップとオルタナティブR&Bを軸に、パンク・ロック、エレクトロからモダン・サイケなどさまざまなジャンルが一堂に会した“音楽絵巻”に仕上がった。
なかでも印象的なのは、壮大なパワー・バラードの「Lithonia」や、軽快なインディ・ポップの「Real Love」など、ロックテイストの強い歌モノの楽曲が多いこと。その一方でアマレイとフロー・ミリをフィーチャーした「Talk My Shit」やプロディジーをサンプリングした「Got To Be」、気になるタイトルの「Yoshinoya」など鋭いラップナンバーも聴きどころになっている。
アルバムは今後公開が予定されている同名映画のサウンドトラックとされている。黙示録的な内容を予感させる映画にも期待が高まる。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。