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ART

2024.05.26

画家・石垣栄太郎が描いた黒人差別。現代にも続く、アメリカの壮絶な闇とは

世界のビジネスパーソンにとって、アートは共通の必須教養! 世界97ヵ国で経験を積んだ元外交官の山中俊之さんが、アートへの向き合い方を解説する『「アート」を知ると「世界」が読める』より、一部を抜粋してお届けします。

人種差別とアイデンティティの探究

「アフリカでもロシアでも、どこから来た人もアメリカ人」

違いがあっても同じ──それが移民の国・アメリカの象徴であり強みですが、同時に建前であり弱みであることを、長く続く悲惨な事件を通して私たちは知っています。

奴隷制時代は論外ですが、リンカーンによって自由になったはずの黒人が、ただ歩いていただけで「気に食わない」とリンチされる。参政権をもてず、バスもトイレも学校も「黒人用を使え」と分断されていたのですから、そんな自由は不良品です。

19世紀くらいまでは、貧困や教育の機会欠如のために黒人がアートに親しむチャンスも少なく、戦前のアメリカで活躍したアーティストのほとんどは白人でした。

そんな中、この時代のアメリカの黒人画家として最も評価されているのはヘンリー・オサワ・タナーでしょう。代表作〈バンジョー・レッスン〉は、老人が孫と思しき少年にバンジョーを教えるシーンを描いています。

バンジョーは、アフリカ発の弦楽器で、アメリカの黒人社会でも演奏された楽器。この作品では、白人には描けないアメリカの黒人社会の様子が記録されています。

バンジョー・レッスン(Henry Ossawa Tanner, Public domain, via Wikimedia Commons)

アメリカの人種差別を扱ったアートは多岐にわたりますが、私がぜひ取り上げたいのは、和歌山県太地町出身の日本人アーティスト、石垣栄太郎による〈リンチ〉です。1909年、石垣は先に移住していた父を追ってアメリカへ。わずか15歳の彼がそこで体験したのは、壮絶な人種差別でした。

アメリカで生まれ育ったのに、ただ黒人であるというだけで暴行されることが日常茶飯事。英語が話せないまま移住してきた黄色人種という石垣は、自身の差別体験と相まって、多くの疑問を抱いたことでしょう。

石垣の出身である太地町の太地町立石垣記念館に足を運んだ際、人種差別に関する多くの作品が展示されていて、言葉では伝わらない人種差別のおぞましさが迫ってくるようでした。

自作のデッサンの前に立つ石垣栄太郎(Archives of American Art, Public domain, via Wikimedia Commons)

リンチという目を伏せたくなるシーンもアートという形で提示されているため、正面から向き合い、反省をうながすことができる。アートがもつ深淵なパワーを感じました。

東京国立近代美術館所蔵の〈リンチ〉に描かれているのは、夜の闇の中、殴る蹴るのリンチを受けている黒人と、悪びれる様子すら見せない白人。人種差別の非人道性が余すところなく(あぶ)り出されます。

この作品は、私たちにある問いを投げかけます。

「自分がこの時代、黒人としてアメリカに生を(う)けていたら?」

それほどまでに人種差別の凄惨さが迫ってくる作品であり、このような差別は石垣が生きた時代だけではなく、現在も続いています。

私がアメリカの黒人と話していて感じるのは、彼らがリアルにもっている「突然襲われる恐怖」です。

宗教や人種、性自認だけが理由で暴力を振るわれ、命さえ奪われる──その危険がゼロではないアメリカの今に戦慄しましたが、21世紀になっても決して古びない〈リンチ〉は、その恐怖が永久保存されているかのようです。それはただのメッセージではなく、「あなたは、今なお解決しない人種問題にどう立ち向かうか?」という問いです。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:「アート」を知ると「世界」が読める
山中俊之

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