今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、ボーイジーニアスの『the record』。
3人の“ジーニアス”が響かせるタイムレスな美学
3つの声のハーモニーが、研ぎ澄まされた詩情を描きだす。フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカスという気鋭の女性シンガー・ソングライター3人が結成したスーパーグループ、ボーイジーニアス。その初のアルバムは、タイムレスな美しさを持つ1枚に仕上がった。
2023年2月の来日公演も大盛況だったフィービー・ブリジャーズを筆頭に、それぞれの近作がUSインディーシーンを代表する傑作として評価を高め、飛躍を果たしたタイミングで作られた本作。最初はそれぞれが曲を持ち寄り、合宿で深い会話を重ねながら楽曲制作とレコーディングを進めていったという。
全12曲はアコースティック・ギターの柔らかな響きを活かしたフォーキーな楽曲と、エネルギッシュなオルタナティブロックナンバーのふたつが軸。「Not Strong Enough」の情熱的なメロディ、カントリーテイストの「Cool About It」の親密さ、「We’re In Love」のおおらかな温かみなど、各曲に3人の個性が溶け合った化学反応が生まれている。偉大な詩人の一節を引用した「Leonard Cohen」など文学的な深みのある歌詞の表現も聴きどころ。
思慮深さと優しさが形になったようなアルバムだ。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。