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2023.03.07

【坂本龍一】闘病生活の中で生まれた、6年ぶりの新アルバム『12』

今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、坂本龍一の『12』。

坂本龍一氏

Photo by zakkubalan ©2022 Kab Inc.

鍵盤の1音1音ににじむ、ひとりの音楽家の命の滴

ある時は風の囁(ささや)きのように、ある時は雲間からさす光のように。別の日には、感情の揺らぎにも聴こえる作品集。聴き手のマインドやフィジカルのコンディションによって、異なる音楽に感じられる。

坂本龍一の約6年ぶりのオリジナルアルバム『12』は、ピアノやシンセサイザーだけで録音されている。坂本の10本の指で奏でられる澄み切ったサウンド。あらゆる装飾を排し、作者の心に描かれたシンプルなスケッチが音になっていく。

そして、鍵盤の1音1音に音楽家の命の滴(しずく)がにじんでいる。

2020年初夏、坂本はがんを再発した。2021年以降は入退院をくり返している。病院から住まいに戻り、体力が回復すると鍵盤に向かい日記を綴(つづ)るように音を紡いできたそうだ。

「20210310」「20211130」など、タイトルは各曲が生まれた日付になっている。ラストテイクは「20220304」。割れた陶器のかけらが、ぶつかり合うサウンドが美しい。

ピアノが特に切なく儚(はかな)く響くのは「20220302-sarabande」。タッチに哀愁を感じる。坂本はどんな思いで弾いたのか――。この日の東京は晴れのち曇り。瞳を閉じ、曇天のもとピアノに向かう坂本の姿を思い浮べた。

坂本龍一6年ぶりの新作アルバム『12』

『12』
Commmons ¥3,410。
約6年ぶりのオリジナルアルバム。闘病のさなか、1曲ずつ日記を綴るように鍵盤で音を紡いでいく作品集。12曲収録。

Kazunori Kodate
音楽ライター。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(ともに新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名言・名盤・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。

TEXT=神舘和典

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