今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、ゴリラズの『Cracker Island』。
多彩なゲストたちと描きだす、ニヒリスティックな楽園世界
ゴリラズが3年ぶり8作目の新アルバム『Cracker Island』を発表した。ゴリラズとは、ブラーのデーモン・アルバーンとイラストレイターのジェイミー・ヒューレットによる覆面プロジェクト。彼らは常に、最先端の音楽表現を開拓してきた。
メンバー全員がアニメのキャラクターである「バーチャル・バンド」というあり方も、ヒップホップやサイケロックなどのジャンルを融合した音楽性も、2000年代初頭の活動開始当初から時代を先取りしていた。
新作はロンドンからカリフォルニアへと拠点を移して制作された1枚。まず目を引くのは豪華なゲスト陣だ。表題曲に参加したLAの奇才サンダーキャットを筆頭に、フリートウッド・マックのメンバーでもある現在74歳のスティーヴィー・ニックス、ラテン界のスーパースターであるバッド・バニーなど、世代もジャンルも国籍も多彩な面々が並ぶ。カラフルなシンセポップを軸に、ファンキーなグルーヴに乗せて、独特の倦怠感と色気を漂わせる歌声が響く。
歌詞ではカルト集団やネット社会をモチーフにしたニヒリスティックなテーマを描きつつ、夢想の楽園を体感させてくれるような聴き心地を持つ。まさにゴリラズらしい先鋭的な1枚だ。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。