今、チェックしておきたい音楽をゲーテが紹介。今回は、アークティック・モンキーズの4年ぶりの新作となる『ザ・カー』。
甘美さと不穏さが隣り合う、新境地のサイケデリア
名実ともにUKを代表するロックバンドとして君臨するアークティック・モンキーズ。その魅力は作品ごとに大胆な変貌を遂げる探求精神にある。10代の衝動を疾走感たっぷりに鳴らしたデビュー作から、ヘヴィなギターサウンドと重低音ビートを融合した2013年の名盤『AM』、一転してメロウでレトロなラウンジミュージックを展開し賛否両論を巻き起こした2018年の前作『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』。4年ぶり7作目の新作『ザ・カー』も挑戦に満ちた1枚だ。
全10曲はゆったりとしたテンポのバロック・ポップが中心。優雅なストリングスを軸にしたサウンドは、エンニオ・モリコーネなど1950〜60年代の映画音楽にも通じるものがある。グラマラスで艶のあるアレックス・ターナーの歌声も、どこか演劇的な響きを持つ。全体的にレトロ感を漂わせる音作りは前作の延長線上だが「I Ain't Quite Where I Think I Am」や「Body Paint」など抑制されたバンドサウンドとの融合で、絶妙にモダンな仕上がりになっている。また、ラストの「Perfect Sense」の張り詰めた美しさも胸に迫る。甘美さと不穏さが隣り合う、他にないサイケデリックな世界を堪能できるアルバムだ。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。