日本人アーティスト・imaseがリリースした「NIGHT DANCER」が、韓国で注目を集めている。同曲は韓国を代表する音楽配信サービス「Melon」において、韓国勢圧勝のなか17位を記録。この動向はビジネスパーソンとしてもキャッチアップしておきたい。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
TikTok発次世代アーティストimase
先日、日本人アーティストのimaseが韓国で初のショーケースを開催し、500人以上のファンと触れ合った。K-POPアーティストが来日ショーケースを行うことは多々あるが、その逆パターンはなかなか珍しい。それゆえ日本はもちろん、韓国の各種メディアも彼のことを大きく取り上げていた。
imaseといえば、SNSを中心にZ世代から絶大な人気を得ている22歳の新星。メジャーデビュー曲「Have a nice day」がSpotify日本バイラル週間チャートで1位を獲得するなどチャートを席巻し、2022年8月にリリースした「NIGHT DANCER」は日本のみならずアジア各国のSpotifyバイラルチャートにランクインした。
「imaseの『NIGHT DANCER』が良いらしい」という口コミが韓国で広がったのは、TikTokがきっかけだった。ユニバーサルミュージックコリアの関係者によると、「TikTokで『NIGHT DANCER』がダンスチャレンジのBGMとして使われたことで再生回数が12億回を超え、この記録が韓国音楽チャートにおける良い成績につながった」(『東亜日報』)という。
SNSがブームのキーワードに
昨今、全世界のZ世代がTikTokに代表されるショート動画(15秒〜3分以内の短い動画)にハマっているが、韓国も例外ではない。
韓国人によるTikTokの月平均使用時間は23.6時間(韓国data.ai調べ・2022年1〜3月)。これはYouTube(23.2時間)やFacebook(19.4時間)、Instagram(11.5時間)よりも高い数字だ。
さらに10代に絞ると、TikTokの総使用時間は19.4億分で、“韓国版LINE”と言えるKakaoTalk(18.6億分)や最大級ポータルサイトのNAVER(11.4億分)を上回る。TikTokはもはやZ世代の日常生活に欠かせないツールであり、トレンドの発信源になっているわけだ。だからこそTikTok発といえるimaseの人気に、韓国のZ世代が注目したのは自然なことだろう。
実際に『NIGHT DANCER』のダンスチャレンジは一般人だけでなく、昨年末の紅白歌合戦に出場したIVEやStray Kids、ATEEZ、STAYC、そして前回紹介したタナカさんなど、芸能人も多数参加するほど韓国でもブームだった。それが追い風となって、音楽配信サービス「Melon」の海外総合チャートでは2位、K-POPが圧倒的な割合を占めるトップ100チャートでは17位を記録。いずれもJ-POP史上初の快挙というのだから、その人気のスゴさがわかるだろう。
RADWIMPS、YOASOBI、米津玄師、あいみょんetc.J-POPの逆襲
さらに注目すべきは、imaseをきっかけに“J-POPに目覚めた”韓国のZ世代がじわじわと増えていることだ。Apple Music、YouTube Music、Spotifyなど、若者が愛用する音楽プラットフォームのランキングがそれを証明している。
最近、Apple Musicの「トップ100:韓国」(韓国で最も聴かれている曲のランキング)にはimaseのほか、RADWIMPS、YOASOBI、米津玄師、あいみょんら日本のアーティストの楽曲がランクインされ、K-POPが圧倒的主流だったランキングに変化が現れた。
また、YouTubeでは「J-POPブームは来る!」「聞くやいなや惚れるしかないJ-POP」などと題したプレイリスト動画が何十万回再生数を誇り、「どれも名曲ばかり。K-POPを聴く外国人の気持ちってこんな感じなのかな?」「意外と名曲が多くて、J-POPに対する偏見がなくなった」「バンドサウンドっていいな」といったコメントが数多く寄せられている。さらには「ぜひ聴いてほしい」として優里、藤井風、ヨルシカ、Official髭男dism、Novelbrightの名前を挙げたコメントも数多く見受けられる。
K-POPを聞きながら育った韓国のZ世代にとって、多様性を持つJ-POPは新鮮で“味のある”ジャンルなのだろう。YouTubeのコメント欄を見ていると「J-POPを聴くのがオシャレ」という雰囲気さえ感じられるほどだ。
imaseは韓国ショーケース直前に行われた記者会見で「今後の目標は、国境を越えて日本語が持つメロディや強みを生かした音楽を披露すること」と語っていた。日本が国境と言語の壁を壊してK-POPを受け入れたように、今度は韓国で“J-POPの逆襲”が始まるのかもしれない。
著者・李ハナ
韓国・釜山(プサン)で生まれ育ち、独学で日本語を勉強し現在に至る。『スポーツソウル日本版』の芸能班デスクなどを務め、2015年から日本語原稿で韓国エンタメの最新トレンドと底力を多数紹介。著書に『韓国ドラマで楽しくおぼえる! 役立つ韓国語読本』(共著作・双葉社)。
■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。