俳優・滝藤賢一による本誌連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。約6年にわたり続いている人気コラムにて、これまで紹介した映画の数々を編集部がテーマごとにピックアップ。この年末年始に、あなたの人生と共鳴する一本をご提案! 今回は、気分を変えてくれる音楽編。
『ラ・ラ・ランド』
またまたやってくれました『セッション』の衝撃再び!
実は短期連載4回限定で始まったこの企画もすでに26回目。感無量です(涙)。さて、今回は最高に粋なミュージカル作品をご紹介。昨年、『セッション』で全世界を大いに沸かせた、デイミアン・チャゼル監督の最新作『ラ・ラ・ランド』です。
冒頭、ロサンジェルスの高速道路を貸し切っての撮影。大渋滞、動かないクルマから降りたドライバーたちが、次々とダンスを披露。カット割りなしのワンショット。一瞬で心を鷲摑みにされているなか、エマ・ストーン登場。長い長いワンショットの最後に登場することほどスリリングなことはない。観ているこちらが緊張する。女優になることを夢見て、カフェで働くヒロインのミア。「LAやニューヨークのカフェやバーで働いているウェイター、ウェイトレスは、ほとんどが俳優で、彼らは働きながらダンスや歌のレッスンを受け、腕を磨き、ステージに立つチャンスをWaitしているんだ」とかつて仲代達矢さんがおっしゃっていました。うまいこと言うなぁ、と当時は仲代さんのネタだと思っていましたが……本当だったんだなぁ。
そして、主人公のジャズピアニストを演じるライアン・ゴズリング。髪の毛を後ろになでつけ、開襟の長袖シャツをロールアップしている。まるで昔のイタリア映画に出てくる伊達男。ジャケットの持ち方も美しい。僕も彼の影響を受け買ってしまいました、開襟シャツ。3枚も――。
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『セッション』
師匠と戦ってこそ芸は磨かれる!? 鬼教師はクズか天才か
こんにちは。前号(2015年4月号)で、アカデミー賞主演男優賞の予想を当てた滝藤です(笑)。現在公開中の作品も多いので、調子に乗って今年のノミネート作品を分析してみました。共通点は、他人には理解できない熱量で、主人公がある分野にのめり込む姿を魅力的に映していること。本作もまさにそう。ある名門音楽大学の教師と生徒がジャズに邁進(まいしん)する様を描いていて、鬼教師フレッチャーを演じたJ・K・シモンズは最優秀助演男優賞を獲りました。
ただ、観終わって最初に出た言葉は「雑だなあ」でした。「なくなったって騒いだ先輩の楽譜、結局どこいったんだよ」とか「元カノとの電話、なんだったんだよ」とか、散らかったまま片付けられない話が多い(笑)。
でも、そういった雑さをすべて吹き飛ばすのが、主役ふたりの怒濤(どとう)の演技バトル! 呼吸するのも忘れる凄(すさ)まじさ! 個人的には、J・K・シモンズの攻めを受けるニーマン役のマイルズ・テラーに釘付けでした。17小節の4拍目のテンポが違うとか、気が遠くなるような細かいドラムの表現をしていて、音大生をスカウトしてきたのかと思うほど。猛特訓したからといって、あそこまでできるようになるんだろうか……脱帽です――。
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『エール!』
連載開始以来久々の大号泣。歌の力を思い知る名画
ボンジュール、ムッシュー。滝藤はアメリカ映画しか見ないようだと編集部が決めつけていたようですが、ノンノン。今回は厳しい審議を経て、初のおフランス映画をご紹介いたします。
『エール!』はフランスで4週連続第一位に輝いた大ヒット作。主人公・ポーラの家は酪農家。両親と弟は耳が聴こえず、一家の日常をポーラが支えています。ハンディキャップをポップに描いて笑い飛ばす作品は、加減が実に難しい。冒頭から母親が膣炎で病院に行く場面。両親の性生活についての、医師との際どいやり取りを高校生のポーラが手話で通訳。その、やりすぎ感に正直最初はノレなかったんです。でもこの映画のすごさは、病院を出る頃にはその印象が不思議と盛り返されているところ。病院の待合室でぼーっとエロ本読んで待っている弟に「そうくるかー」と笑えましたし、あらゆる要素がちりばめられていて、いつの間にやら引き込まれてしまいました――。
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『イエスタデイ』
夢を諦めかけた主人公に起こった奇跡!?
私たち40代は、映画監督ダニー・ボイルの洗礼を受けた世代。名古屋から上京して飛びこんだ渋谷の今はなきシネマライズで観た『トレインスポッティング』の衝撃は今でも鮮明に憶えています! 映画館に同じ作品を2回観に行ったのもこの作品が初めてでした。
そして、映画に対して、初めてコメントを出させてもらったのもダニー・ボイルの『スラムドッグ$ミリオネア』。主人公が人生を疾走する様を、毎度毎度、あらゆる作品で見事に演出するので、映画冒頭ですぐに心を摑まれてしまいます。新作『イエスタデイ』は、『ノッティングヒルの恋人』のリチャード・カーティスによる脚本を映画化したもの。
主人公ジャックは売れないミュージシャン。音楽では食べられず、スーパーマーケットでアルバイト中。有名なフェスにブッキングされても観客は数人。アルバイト先で正社員になる話もあり、夢を諦めかけています。いやぁ、身につまされます――。
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Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。初のスタイルブック『『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』』(主婦と生活社刊)が発売中。滝藤さんが植物愛を語る『趣味の園芸』(NHK Eテレ)も放送中。