役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
夢を諦めかけた主人公に起こった奇跡!?
私たち40代は、映画監督ダニー・ボイルの洗礼を受けた世代。名古屋から上京して飛びこんだ渋谷の今はなきシネマライズで観た『トレインスポッティング』の衝撃は今でも鮮明に憶えています! 映画館に同じ作品を2回観に行ったのもこの作品が初めてでした。
そして、映画に対して、初めてコメントを出させてもらったのもダニー・ボイルの『スラムドッグ$ミリオネア』。主人公が人生を疾走する様を、毎度毎度、あらゆる作品で見事に演出するので、映画冒頭ですぐに心を摑まれてしまいます。新作『イエスタデイ』は、『ノッティングヒルの恋人』のリチャード・カーティスによる脚本を映画化したもの。
主人公ジャックは売れないミュージシャン。音楽では食べられず、スーパーマーケットでアルバイト中。有名なフェスにブッキングされても観客は数人。アルバイト先で正社員になる話もあり、夢を諦めかけています。いやぁ、身につまされます……。
私もいくつもアルバイトをやりながら、出演者が5人なのに観客が2人しかいない舞台に立ったこともあります。今となっては、とても貴重な経験だったと思いますが、当時はこのアルバイト生活がいつまで続くんだろうと正直、何度も心折れかけました……。落ちるとこまでとことん落ちる。腐りまくって毒を吐く。このどん底時代があったからこそ、反骨精神が生まれ図太くなった気がします。
それにしても全世界レベルの12秒間の停電を機に、ビートルズが消えた世界になるという設定が絶妙です。幼なじみのエリー役のリリー・ジェームズが少し垢抜けないのも好感。ジャックとの恋の行方もじれったくてキュンキュンします。
あっ、そうそうエド・シーランが本人役で出演しているんですよ。いい味を出しています。"このセリフよく言ったな"と彼の懐のデカさを感じました。
中学生の時、今は亡き父に「何かいい音楽はない?」と聞いたことがあります。意外にも「『イエスタデイ』なんていいんじゃない」と返ってきたことをふと思いだしました。名曲揃いの1作です。
『 イエスタデイ』
ダニー・ボイルとリチャード・カーティスが初めてコンビを組み、イギリスが生んだ大スター、ビートルズの名曲をモチーフにした作品。全世界的な停電の夜、交通事故に遭った主人公ジャックは退院後、世界からビートルズが消えていることに気づき、自分の曲として演奏するが……。映画の舞台、サフォーク出身のエド・シーランの本人役の存在も効いている。
2019/イギリス
監督:ダニー・ボイル
出演:ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ケイト・マッキノン、エド・シーランほか
配給:東宝東和
10月11日より、全国公開