連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『セッション』を取り上げる。
師匠と戦ってこそ芸は磨かれる!? 鬼教師はクズか天才か
こんにちは。前号で、アカデミー賞主演男優賞の予想を当てた滝藤です(笑)。現在公開中の作品も多いので、調子に乗って今年のノミネート作品を分析してみました。共通点は、他人には理解できない熱量で、主人公がある分野にのめり込む姿を魅力的に映していること。本作もまさにそう。ある名門音楽大学の教師と生徒がジャズに邁進(まいしん)する様を描いていて、鬼教師フレッチャーを演じたJ・K・シモンズは最優秀助演男優賞を獲りました。
ただ、観終わって最初に出た言葉は「雑だなあ」でした。「なくなったって騒いだ先輩の楽譜、結局どこいったんだよ」とか「元カノとの電話、なんだったんだよ」とか、散らかったまま片付けられない話が多い(笑)。
でも、そういった雑さをすべて吹き飛ばすのが、主役ふたりの怒濤(どとう)の演技バトル! 呼吸するのも忘れる凄(すさ)まじさ! 個人的には、J・K・シモンズの攻めを受けるニーマン役のマイルズ・テラーに釘付けでした。17小節の4拍目のテンポが違うとか、気が遠くなるような細かいドラムの表現をしていて、音大生をスカウトしてきたのかと思うほど。猛特訓したからといって、あそこまでできるようになるんだろうか……脱帽です。
それから、興味深いのは「褒めて伸ばすか、けなして育てるか」というテーマ。もう、ニーマンの姿が無名塾(編集部注:仲代達矢氏主宰の俳優養成所。「劇団の東大」といわれるほどの難関)に合格直後の若き日の自分そのもので胸が疼(うず)きました。僕も本作と同じく、当時付き合っていた彼女と一方的に別れ、すぐ成功するつもりで入塾。ところが、仲代さんの稽古は厳しく、一言台詞を言うと「聞こえない」、一歩歩くと「違う」と言われる毎日。いまだに無名塾の近くに行くと、吐き気を催すくらいですよ(苦笑)。でも“ギプス”のように徹底的に叩きこまれた基礎があるから、今も役者を続けていられるのだと思います。厳しさのなかでこそ、より才能は開花すると思う。だけど会社でフレッチャーの真似をしたら、部下から訴えられるかもしれませんので、ご用心を!
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!