CAR

2025.04.29

ここ1年で発表された電気自動車として世界一! 日本の道路事情にフィットしたヒョンデの小型車「インスター」の実力とは

クルマ生活を豊かにしてくれるセカンドカーを考える不定期企画。今回はデザインや機能など、あらゆる面で完成度が高いヒョンデの小型電気自動車を推したい。

 ヒョンデ・インスター

ヒョンデのデザインへのこだわりを示すエピソード

これまで、家族とシェアするセカンドカーというテーマで何台かを提案してきた。ここに紹介するヒョンデ・インスターをひとことで表現すると、老若男女だれからも好まれる、おしゃれで人にやさしいBEV(バッテリー式EV)だ。

Z世代の子どもたちにウケそうなデザイン、パートナーが喜ぶ運転のしやすさ、そしてクルマ好きも納得する快適性の高さなど、セカンドカーとして推したいポイントが数多い。事実、2025年4月、ニューヨーク国際オートショーの会場で、ヒョンデ・インスターが「ワールド・エレクトリック・ビークル」に選出されたことが発表された。ここ1年で発表された電気自動車としては世界一、ということだ。

まずエクステリアのデザインは、シンプルなのに存在感があり、しかも愛嬌のあるキャラクターも備えている。ヒョンデがトヨタ、フォルクスワーゲンに続く世界第3位の自動車メーカーに成長した理由のひとつが、デザインへのこだわりだと考える。ヒョンデがいかにデザインを大切にしているブランドであるかを示すエピソードを紹介したい。

 ヒョンデ・インスター

1970年代、まだ韓国自動車産業が自力で自動車を生産できなかった時代に、ヒョンデの会長だった鄭周永(チョン・ジュヨン)は、若き日のジョルジェット・ジウジアーロにコンセプトカーのデザインを依頼した。

初代フォルクスワーゲン・ゴルフや初代フィアット・パンダのデザインで知られる“マエストロ”ジウジアーロが手がけたヒョンデ・ポニー・クーペ・コンセプトは、世界的な不況から市販化には至らなかったけれど、ヒョンデというブランドのDNAとなっている。このブランドが近年も欧米の有名カーデザイナーを招聘しているのには、こうした背景がある。

ヒョンデのクルマ
ヒョンデが1974年のトリノ・モーターショーに出展したポニー・クーペ・コンセプト。自動車デザインの巨匠ジョルジェット・ジウジアーロが手がけたウェッジシェイプのスポーツクーペは、いま見てもエキサイティングだ。

インパクトのあるデザインだから実寸よりも大きく感じるけれど、全長3830mm、全幅1610mmというインスターのサイズは、日本の軽自動車規格と5ナンバー枠の中間という絶妙なものだ。都市圏に暮らしていると気づきにくいけれど、実は日本の道路の8割以上は、5ナンバー車と軽自動車が主流だった1970年代までに設計されている。つまり日本の道を走るには、このくらいのサイズがちょうどいいのだ。

本来であれば日本の自動車メーカーがこのくらいのサイズのBEVを出すべきだったと思うけれど、ヒョンデに先を越された。

軽自動車規格では全長3400mm以下、全幅1480mm以下と定められている。また、5ナンバー枠は全長4700mm以下、全幅1700mm以下。インスターのサイズ感は、この間に位置する。

インテリアは、奇をてらわない、機能重視の王道。でも実際に使ってみると、あちこちに細やかな心配りを感じる。

タッチスクリーンにインターフェイスを集約する最近の傾向は、確かに先進的な雰囲気を醸す。けれども実際に使ってみると、空調やオーディオのボリュームなど、頻繁に操作するものは、インスターのようにスイッチやダイヤルを残してくれるほうが使いやすいのだ。タッチスクリーンに“全振り”する方式だと、必要な情報の階層にアクセスするのに時間がかかって、イラッとすることがあるからだ。

 ヒョンデ・インスター
頻繁に操作するスイッチとダイヤルを残したインテリア。右左折時には、左右のメーターの演習内に斜め後方の死角の映像が映し出される。

日本車と同じように、ウィンカーレバーを右に移していることから、日本市場に適応しようという意欲を感じる。そして右にウィンカーを出すとメーターパネルの右側の窓が、斜め右側の後方の死角になるあたりを表示する。左も同様で、しかもドアミラーに映るものよりも広い視野を確保しているから、安心して車線変更や右左折ができる。地味ではあるけれど、効果的な親切装備だ。

試乗したのは最上級のLoungeグレードだったので、運転席にはシートヒーターとベンチレーションまで備わっていた。このサイズの国産車で、ここまで装備が充実しているケースは記憶にないから、新鮮に感じる。また、後席にはスライド&リクライニング機構が備わっていることも記しておきたい。

快適で装備充実の小さな高級車

走り出して真っ先に感心するのは、静粛性の高さ。エンジン音が聞こえないBEVの場合、逆にタイヤからのロードノイズやボディが風を切る音が気になったりするけれど、このクルマの場合は遮音が徹底している。

市街地から高速道路まで、さまざまな速度域と路面を走ると、乗り心地も快適であることがわかる。凸凹路面を通過しても、4本の足が伸びたり縮んだりして、路面からのショックを上手に和らげてくれる。

このあたりは、首都高速のつなぎ目など、日本特有の路面コンディションを1年以上にわたって研究して、日本に合ったセッティングにチューニングしているという。

装備が充実していることに加えて、こうした快適性の高さから、「コンパクト=安い」ではなく、上質な小型車を狙っていることが伝わってくる。

 ヒョンデ・インスター
軽快で扱いやすいハンドリング、乗り心地、静粛性などなど、細部に至るまで日本市場に合わせたチューニングが施されている。

上質さを感じるのにはもうひとつ理由があって、それは安全・運転支援装置が充実していることだ。先行車両に追従するクルーズコントロールや自動ブレーキなど、現時点における最先端のシステムが備わっている。

特筆すべきは、ペダル踏み間違え防止装置も装備することで、これは輸入車としては珍しい。冒頭に、子どもたちやパートナーとシェアすると書いたけれど、最近気になるのが高齢者のペダル踏み間違えに起因する事故だ。両親が乗るケースも考えると、この機能はありがたい。

49kWhのバッテリー容量を確保したLoungeグレードとVoyageグレードの一充電走行距離は、458km。もちろん日本のCHAdeMO規格に対応し、30分間の急速充電で10%から80%までの充電が可能だという。

 ヒョンデ・インスター
グレードは、「Casual」(284万9000円)、「Voyage」(335万5000円)、「Lounge」(357万5000円)の3本立てとなる。

日本でBEVの普及が遅れているのは、インフラ整備の問題が大きい。そしてもうひとつ、どうしても乗りたくなるような魅力的なBEVが少ないことも理由のひとつではないだろうか。ヒョンデ・インスターは、少し手間がかかるかもしれないけれどともに暮らすと一家が明るくなる、ペットのようなキャラのBEVだった。

 ヒョンデ・インスター
ヒョンデ・インスターLounge
全長×全幅×全高:3830×1610×1615mm
ホイールベース:2580mm
駆動方式:前輪駆動
最高出力:115ps/5600〜13,000rpm
最大トルク:147Nm/0〜5400rpm
価格:357万5000円〜(税込)

問い合わせ
Hyundaiカスタマーセンター TEL:0120-600-066

サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

TEXT=サトータケシ

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