CAR

2024.11.03

ジェームズ・ボンドが選ぶにはワケがある! アストンマーティンの最新DB12【試乗記】

2023年5月、アストンマーティンの創業110周年、「DB」シリーズの誕生75周年という記念すべきタイミングでニューモデル「DB12」が発表された。DB11の後継モデルであり、同社における新世代スポーツカーの第1弾と位置づけられる。クーペとオープンモデルであるヴォランテの両方に試乗した。

アストンマーティンと聞くと、映画『007』シリーズの主人公ジェームズ・ボンドの愛車を思い出す人も多いだろう。シリーズ3作目の『ゴールドフィンガー』にボンドカーとして登場したアストンマーティンDB5は、その後の一連の007シリーズ作のなかでボンドのプライベートカーとしてもたびたび登場している。

映画『007』シリーズにたびたび登場する名車・アストンマーティンDB5。1963年〜65年までわずか2年間のみ生産された。

実はこの「DB」とは、第二次世界大戦後にアストンマーティンを自らの企業グループの傘下におさめたイギリス人実業家・デイヴィッド・ブラウンのイニシャルである。ハンティングをたしなみ、サラブレッドを所有し、パイロットの資格を有し、ナイトの称号を得た、ジェントルマンであったという。しかし、1970年代にデイヴィッド・ブラウンは経営難に陥る。アストンマーティン・ラゴンダ社を手放すことになり、新オーナーのもと一度はDBの名は消滅することになる。

しかし、1990年代にフォードが同社を傘下に収めると、デイヴィッド・ブラウンを新生アストンマーティンの役員として招聘し、「DB」の名が復活する。以降、ブラウンの没後もハイパフォーマンスバージョンの「DBS」やSUVの「DBX」など派生モデルも誕生しながらDBの名は連綿と受け継がれているというわけだ。

「DB12」のボディサイズは全長4725mm、全幅1980mm、全高1295mm、ホイールベース2805mm。基本骨格にはアストンマーティンが得意とする最新世代のアルミ押し出し材を接着したVHプラットフォームを採用する。

アストンマーティンの創業110周年、「DB」シリーズの誕生75周年という記念すべきタイミングで発表された「DB12」。

エクステリアデザインは、先代のDB11に比べてエンジン出力の向上に伴い、よりフロントグリルを拡大し開口部を大きくとっている。スタイリングとしては抑揚の効いた大胆なものながら、大げさなフロントスポイラーやリアウイングなど、エアロパーツ類を備えないアンダーステイトメントさが、まさに英国車の雰囲気。アストンマーティンはこのDB12を、グランドツアラーを超えた“スーパーツアラー”と標榜している。

パワーユニットは、最高出力680PS/最大トルク800Nmを発揮する4リッターV8ツインターボエンジンをフロントミッドに搭載。これは従来同様にメルセデスAMG製ユニットをベースに独自のチューニングを施したもの。組み合わせる8速ATはリアアクスル側に配置するトランスアクスル方式を採用する。

大型スポイラーなど、おおげさな空力パーツを用いずともCピラーの根元をブラックアウトし、さり気なくデザインされたエアインテークから空気を取り込みダウンフォースを得ている。

インテリアはセミアニリンレザーをふんだんに用い、またセンターコンソールパネルにはカーボン、シフトセレクターにはレザー、そしてダイヤル類にはリアルな金属を用いるなど、単にゴージャスなだけでなく、本物志向であることが伝わってくる。

クリスタル製のエンジンスタート/ストップボタンを押すと瞬時にV8ツインターボユニットが目覚める。いまどき500PS超のスポーツカーは4WDを採用するのが一般的だが、アストンマーティンは680PS/800Nmというハイスペックに対してあえて2WD、しかも後輪駆動を採用している。

それを担保する最新技術として、アダプティブダンパーやDBモデル初の電子制御式LSD(E-diff)の採用がある。フロントミッドシップ+トランスアクスルで前後重量配分は48:52を実現するなど基本的なバランスのよさを前提に、ハイテク制御を組み合わせこのハイパワーな後輪駆動車のトラクション性能をしっかりと確保しているというわけだ。

最初はいささか緊張しながらまずは「GTモード」で走りだす。次第になれてくるとコーナーからの脱出で少し強めにアクセルペダルを踏んでみるもしっかりと制御が機能し無用なスライドなどは起きない。「スポーツモード」に切り替えてみると、ステアリングやアクセルペダルへの入力に対して反応がよりソリッドになる。

V8エンジンからは、なみなみとトルクが湧き出し、アクセル操作に対して意のままに反応する。その気になれば凄まじい加速感も味わえる。リラックスしながらツーリングを楽しむもよし、とびっきりスポーティな走りを楽しむもよし、想像していた以上に懐の深さを感じた。

遅れて発表されたオープンモデルである「DB12ヴォランテ」にも試乗したが、ソフトトップの形状などスタイリングの良さは秀逸。ハードトップではなく、あえてソフトトップを選んでいるのもやはり本物のラグジュアリィカーたるゆえんだ(ロールスロイスもベントレーもオープン仕様はソフトトップを採用するのが通例)。

いくらスポーツカーといえどもこれほどルーフを開けても閉めても絵になるモデルはそう多くない。8層構造になっているというソフトトップはもちろん遮音性にも優れる。50km/hまでであれば走行中も操作可能で約14秒で開き16秒で閉じる。オープンモデルにありがちなクーペに対するボディ剛性の低下も一般道を走行しているぶんには微塵も感じない。エレガントさでいえばクーペにもまさる。

しかし、ブランドが自ら“スーパーツアラー”というのも頷ける気がする。ニュルブルクリンク北コースでタイムを削ることに猪突猛進するスポーツカーとは一線を画した世界にいる。美しく、気高く、何にも似ていないスーパーな存在。アストンマーティンDBシリーズは1940年代の初代からいまも変わることなく、そうあり続けているのだ。

TEXT=藤野太一

PHOTOGRAPH=Aston Martin Lagonda Limited

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