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2024.09.29

生産終了間近の日産GT-Rは、なぜ3000万円でも売れるのか? 最終モデルに乗りながら考えた

デビューから17年、日産GT-Rはその実力で、世界のスーパーカーと肩を並べる存在にまで登り詰めた。惜しまれながら生産が終わるこのクルマについて考察した。

日産 GT-R

2007年のデビューから、廉価版でも価格は2倍に

日産GT-Rは、2007年にデビューして以来、基本的な構造を変えることなく、改良を重ねてきたハイパフォーマンスカーだ。

2025年モデルの価格を見ると、最廉価版のGT-R Pure editionが1444万3000円、最高性能版のGT-R NISMO special editionが3061万3000円。この価格を見て、「安っ!」と思う人が、少なからず存在する。

日産 GT-R
3061万3000円というプライスダグがつけられる、日産GT-R NISMO special edition。エンジンには、特に精度の高い部品が使われている。

というのも、特にNISMO仕様のGT-Rは入手困難で、中古車市場では軽く5000万円を超える価格で取引されているからだ。

NISMOというブランドになじみがない方に説明すると、もともとは日産のモータースポーツを担当する組織で、現在ではレースの経験やノウハウを活用して高性能モデルやチューニングパーツの開発を行っている。つまり、メルセデス・ベンツとAMGの関係に近い。

日産 GT-R
過去のスカイラインGT-Rも希少性によっては億以上の価格がつくなど、その価値は世界のクルマ好きから認められるようになった。

ちなみに、2007年に日産GT-Rがデビューした際は777万円からの価格設定だったから、最廉価版も17年間で約2倍になっている。

価格が上がった要因はいくつかあるけれど、要は日産が中身に見合った価格にしたということだろう。デビュー当初は、日産のエンブレムのクルマに1000万円超のプライスタグを付けることを遠慮したのだ。けれども17年間、世界中に実力を見せつけることで、適正価格で販売できるようになった。

2007年のデビュー当初、日産GT-Rのウリは、ポルシェの半分の価格で同等の性能を手に入れられる、ということだった。けれども2024年のいま、ポルシェと同じ価格で売れるようになった。たいした宣伝もなく、自力でカリスマ性やブランド力を獲得したことは、尊敬に値する。

日産GT-Rの中古車市場が高騰している理由のひとつに、2025年モデルを最後に生産が終了することがあげられる。設備の減価償却も終わり、お金を刷っているようなものだろうと外野は思うけれど、生産終了には理由がある。それは、2025年末に義務化される、衝突被害軽減ブレーキの装着に対応できないからだ。

今後、新車の日産GT-Rに乗る機会は、片手で数えられる程度だろう。もしかすると、これが最後になるかもしれない試乗の機会を得たので、このクルマの意義を振り返っておきたい。

日産 GT-R
エンジンは日産の横浜工場で組み立てられ、GT-R Premium edition T-specとGT-R NISMO special editionの2モデルに関しては、匠の名が刻まれたアルミプレートが取り付けられる。

あえて演出を廃したGT-R

試乗したのは日産GT-R Premium edition T-spec。NISMO銘柄以外では最上級の仕様で、価格は2035万円。T-specの「T」は、“Trend Maker”や“Traction Master”といった開発初期のコンセプトに立ち返ろう、という開発陣の意志を表したものだ。

内外装はさすがに時代を感じさせる。特に内装の液晶パネルは、最新モデルと比べると、ブラウン管と有機ELぐらいの違いがある。

けれども無駄な飾りがなく、スポーツ走行に特化したスイッチ類の配置は機能的で潔い。

日産 GT-R
デビュー時から、インテリアの基本的な構成は変わらないけれど、シートや内装の素材は価格に見合った上質なものに変化している。

そして走らせてみても、飾りがない。もちろん圧倒的にパワフルで、思いのままに走れるように作られている。けれども、たとえば官能的なサウンドでドライバーを高ぶらせようとか、予想よりクイックに曲げてドライバーを喜ばせようという、演出がない。

欧米のスポーツカーには演出に趣向を凝らすプロレス的要素があるけれど、日産GT-Rにはない。こっちは、相手と1対1で対峙する武道の趣だ。遊びじゃない、という、ヒリヒリとした手触りがある。

プロレスと武道のどちらが偉いということもないけれど、間違いないのは、スポーツカーは数あれど、武道カーは唯一無二の存在だということ。だからこのクルマは世界中で支持されるようになったのだろう。

日産 GT-R
2024年モデルに移行する際に、若干のデザイン変更を行った。その内容も空力性能を上げるなど、あくまでパフォーマンス向上に関するもので、「飾らずに性能を上げる」という姿勢を最後まで貫いた。

日産GT-Rが登場したときに、開発責任者を務めた水野和敏さんに話をうかがったことがある。カルロス・ゴーンに呼ばれ、「ミズノ、お前がやれ」と日産を象徴するモデルの開発を一任された水野さんは、NISMOでのレース経験を注ぎ込み、ともに戦ったレーシングドライバーの意見を聞きながら開発を進めた。ゴーンの後ろ盾があったから、普通なら通らないわがままやこだわりも貫くことができた。

日産 GT-R
ドライバーの背後に重量物のトランスミッションを配置して車体の重量バランスを前後50:50に近づけた、こだわりのレイアウト。大きな販売台数が見込めないこのクルマであるけれど、開発に妥協はなかった。

たしかに、こんなヤバいクルマは、「年収2500万円以上の割合は人口の何%で、余暇の過ごし方は海外旅行で……」とかやっていたら、絶対にできなかっただろう。映画監督がメガホンをとるように、指揮者がタクトを振るうように、開発者がひたすらに素晴らしいクルマを作ろうと思ったからこそ、日産GT-Rという異能のモデルが生まれたのだ。

ゴーンも水野さんも、日産にはいない。GT-RとNISMOの名が世界で知られるようになったいま、この資産をどう活かすのか。日産の次の一手に注目したい。

日産 GT-R
※写真はGT-R Premium edition
日産GT-R Premium edition T-spec
全長×全幅×全高:4710×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
パワートレイン:3.8ℓV型6気筒ターボ
最高出力:570ps/6800rpm
最大トルク:637Nm/3300〜5800rpm
トランスミッション:6段デュアルクラッチトランスミッション
駆動方式:フルタイム4WD
価格:2035万円万円(税込)

問い合わせ
日産自動車お客様相談室 TEL:0120-315-232

サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

TEXT=サトータケシ

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