大きいクルマが高級でエラい、というクルマ界のヒエラルキーに挑むレクサスLBX。はたしてそのチャレンジの行方は?■連載「クルマの最旬学」とは
乗り出し価格はおおよそ500万円
クルマ好きが夢見るもののひとつに、「小さな高級車」がある。なぜ夢なのかというと、自動車の歴史を振り返ると、小さな高級車はなかなかうまくいかなかった事実があるからだ。
大きなボディに大排気量のエンジンを積んで、ゆったり、どっしり走るのがこれまでの高級車だった。特にヨーロッパでは「高級=パワフル」という考えが根強い。したがって「小さい」と「高級」を両立させることは、なかなかに難しいのだ。
最近では、MINIがコンパクトカーに高い付加価値を与えることに成功しているぐらいで、メルセデス・ベンツ、アウディ、BMWのいわゆるドイツ御三家は、コンパクトカーのラインナップを縮小するという噂もある。
小さいクルマを高級に仕立て、まずまずの価格をつけて売るのは難しいのかもしれない──。という状況にあって、「小さな高級車」に果敢にチャレンジしたのが、レクサスLBXだ。価格帯は、460万円から576万円。基本骨格を共用するトヨタのヤリス・クロスが190万7000円から315万6000円だから、なかなかの開きがある。では、乗ってみるとどうなのか。
基本骨格をヤリス・クロスと共用することから、レクサスLBXはヤリス・クロスのオシャレ版と見られることが多い。けれども、実際に見て、乗ってみると、ヤリス・クロスとは別物であることがわかった。
まずエクステリアデザインは、好き嫌いがはっきりとわかれそうな“強め”の造形だ。後輪を覆うフェンダーはバンとマッシブに張り出しており、立体的になったスピンドルグリルが存在感を主張する。
インテリアはレクサスらしいクオリティで、レザーの色艶やステッチまで、繊細に仕立てられている。
見えないところまで入念にチューン
こうした見た目の高級感も大事ではあるけれど、このクルマで特筆すべきは走りの上質さだ。
3気筒エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムは、目新しいものではない。けれどもしっかりとチューニングされていて、3気筒エンジンの弱点であるゴロッとした回転フィールは微塵も感じさせない。加えて、アクセルペダルの操作に対するレスポンスも俊敏。バカっ速いわけではないけれど、気持ちよく加速する。
乗り心地は、レクサスの他のラインナップに比べるとはっきりとスポーティな味付けになっている。乗り心地がカタいというほどではないけれど、ソールの薄いスニーカーで走っているような、ダイレクト感がある。
ハンドル操作に対する反応は正確で、速いとか遅いというより、清涼なドライブフィールだ。若鮎のように、清々しく走る。
おそらくこのクルマの主戦場のひとつとなるヨーロッパでは、ファン・トゥ・ドライブが「小さな高級車」の大事な要件となるだろう。したがってエンジンにしろサスペンションにしろ、デカいハイパワー車とは別種の走る楽しさを追求しているのだろう。
冒頭でヤリス・クロスと基本骨格を共用していると記したけれど、ホイールベースは延長され、サスペンションは新設計され、トレッド(左右の車輪の間隔)が広げられ、アクセルペダルの形式が吊り下げ式からオルガン式に変更されるなど、地味だけれど大事なところに大きく手が加えられている。
3気筒エンジンにしてもバランスシャフトが加わることで騒音と振動が改善されているし、試乗車には「マークレビンソンプレミアムサラウンドサウンドシステム+アクティブノイズコントロール」がオプション装備され、ノイズに逆位相の音をぶつけることで騒音を減らすという高度なテクノロジーも盛り込まれている。コンパクトカーにちゃちゃっと手を入れて、見た目だけ立派にしましたという「なんちゃって小さな高級車」とはレベルが違うのだ。
ポイントは、清涼で清々しいといういままでになかった高級感、価値観が、理解されるかどうかだろう。若鮎よりも、血のしたたるステーキが高級車には求められるという可能性も否定できない。レクサスLBXが欧米でどんな評価を得るのか、楽しみに待ちたい。
問い合わせ
レクサス インフォメーションデスク TEL:0800-500-5577
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。