ポルシェ911といえば、いつの時代もクルマ好きの憧れ、スポーツカーのメートル原器だ。そのポルシェ911に、ちょっと変わったモデルが設定されたという。早速、試乗を行った。■連載「クルマの最旬学」とは
砂漠のスポーツカー
一風変わったポルシェ911とは、ポルシェ911DAKAR(ダカール)。ダカールとはもちろん“パリダカ”のダカールで、1984年のダカールラリーで優勝したポルシェ911カレラ3.3 4×4 パリ・ダカール(953型)のトリビュートモデルという位置づけだ。
ポイントは、これまでになかったオフロードを走るための911 ということで、最低地上高は最大で190mmまで確保される。これはスポーツサスペンション仕様の911より50mm高い値で、一般的なSUVが200mm程度であることを考えると、かなり本気で悪路を想定していることがわかる。
駆動方式はもちろん4輪駆動で、エンジンは最高出力480psを発生する排気量3ℓの水平対向6気筒ツインターボ。
エンジンと駆動方式だけを見ると、ポルシェ911カレラ4 GTSをベースにしていることがわかるけれど、前述したように最低地上高を高めるだけでなく、前後のトレッドを広げ、ノーマルタイヤではなく専用設計のオールテレインタイヤを装着することなど、ルックスも中身もオフロードを走る気マンマンなのだ。
いざ走り出してみると、最新のポルシェ911よりも走りっぷりが鷹揚というか、動きがおおらかであることがわかる。これは、悪路の凸凹を突破する時にサスペンションが大きく伸び縮みするようなセッティングになっているからだ。
「一糸乱れぬ」と表現したくなる、最新の911のタイトでソリッドなドライブフィールも魅力的ではあるけれど、ゆったりと上下動する911DAKARは、古き良き時代のスポーツカーの匂いがして、これはこれで悪くない。
誤解を恐れずに言えば、最新のスポーツカーは誰が操ってもそこそこ上手に曲がってくれるし、破綻なく走ってくれる。いっぽう911DAKARは、ゆったりと動くサスペンションの挙動をいなしたり、それを利用して上手に曲がる知恵が求められるから、ドライビングが知的な遊びになる。このクルマのステアリングホイールを握っていると、人間とクルマの距離がもっと近かった時代を思い出す。
ちょっと懐かしいドライビングを楽しみながら、ポルシェは40年前のパリダカ優勝という偉業へのオマージュというだけでなく、スポーツカーの原点回帰も目論んでいるのではないか、と妄想した。
色モノかと思っていたら……
という感傷的な気持ちはひとまずおいて、テクニカルな話題に戻ると、911DAKARにはほかの911にはないドライブモードがふたつ存在する。ひとつが「ラリー」で、もうひとつが「オフロード」だ。
残念ながら今回はオフロード走行を試すことはできなかったけれど、ざっくり言えば「ラリー」はオフロードで豪快にドリフトをキメるモードで、「オフロード」はさらに車高を上げて悪路を安全に走破するためのモード。このふたつは、幸運にもオーナーになった方だけが特別な場所で堪能できるモードなのだ。
洒落っ気を感じるのは、ボディカラーとボディ横の文字。1980年代にさまざまなカテゴリーのモータースポーツのスポンサードを行ったロスマンズのカラーに塗られ、「ROTHMANS PORSCHE」ならぬ「Roughroads PORSCHE」の文字が、懐かしのフォントで書かれているのだ。そうか、90年代以降はタバコの広告が規制されたんだよなぁ……。
もうひとつ、911DAKARのオプションリストも洒落が効いている。ルーフに載せるバスケット、ルーフテント、シャベルなどなど。このクルマで砂漠を走り、スタックしたらシャベルで脱出し、日が暮れたらルーフテントを張って眠る、という使い方をする人がいたら、クルマ道楽の究極の姿かもしれない。
911DAKARを試乗する前は、変わり種というから色モノというか、何台ものポルシェをお持ちの方がコレクションのひとつに加えるようなモデルだと思っていた。けれどもじっくりと付き合ってみると、これ1台でも911の魅力が存分に味わえることがわかった。
珍味だと思っていたらそれだけで酒の肴にも、締めのお茶漬けの友にもなるカツオの酒盗のように、実に味わい深いモデルなのだ。
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ポルシェコンタクト TEL:0120-846-911
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。