エンスージアストと呼ばれる熱心なクルマ好きが、モーターショーより楽しみにしているイベントがオートモビル カウンシルだ。8回目となるこのクルマ文化の祭典が、2023年4月14日(金)から16日(日)にかけて、千葉県の幕張メッセで開催された。連載「クルマの最旬学」とは……
垂涎の古今東西の名車たちが集結
会場に足を踏み入れると、目の肥えたクルマ好きがなぜこのイベントを心待ちにしているのかがわかる。ニューモデルだけでなく古今東西の名車が展示され、販売されるクラシック車両には価格が明記されている。会場を歩いていると、乗りたかったけれど手元不如意で諦めたクルマと再会して、値段を見るといまならイケるかも! と気分がアガる。
会場ではクルマ関連のアート作品が展示されているほか、アパレルが販売され、コーヒーなどクオリティの高い飲食物が提供される。また、会場中央のステージでは、ギタリスト・渡辺香津美などのコンサートも催される。
つまりクルマだけでなく、自動車の歴史や自動車のある生活など、クルマ文化をトータルで発信しているのだ。
「オートモビル カウンシル2023 」のテーマは、「CLASSIC MEETS MODERN AND FUTURE」。歴史的な名車にため息をつき、未来のクルマに夢を感じる。
テーマ展示は「ポルシェ911の誕生60周年」企画展示と、「エンツォ・フェラーリ生誕125周年」企画展示の二本立て。いずれも、見応えのあるものだった。
極私的チョイス、グッときた7台
100人いれば100通りの楽しみ方があるオートモビル カウンシルであるけれど、筆者が注目したのは、ネオクラ(ネオ・クラシック)と呼ばれる、ちょっと古いクルマだ。ネオ・クラシックに厳密な定義はないけれど、一般に1980年代から1990年代に生産されたモデルを指すケースが多く、2000年代初頭まで含むこともある。
ご存知のように、1950年代、1960年代のクラシックカーは高騰する一方で、もはや手が届かない存在になっている。けれどもネオ・クラシックは、まだまだ夢を見ることができるのだ。
ここでは、極私的な好みで、特にグッときたモデルを紹介したい。
ネオ・クラシック市場で特に人気があるのが、W124というコードネームを持つメルセデス・ベンツのミディアムクラス。1985年から1995年にかけて生産され、Eクラスに移行した。人気の理由は、W124以降のメルセデス・ベンツはコストダウンの影響が目立つようになったため。「最善か無か」というメルセデス・ベンツの哲学を体現したのはW124が最後、と断言するマニアも多い。W124の人気は日本だけでなく全世界的なもので、程度の良い個体を見つけるのは年々難しくなっている。
911は高くなり過ぎたからFR(フロントエンジン・リアドライブ)のポルシェが狙い目、と少し前までは言われていた。けれども、FRポルシェもじわじわと相場が上がっている。ポルシェ924の後継モデルとして1982年に登場したポルシェ944は、当時「世界で最もハンドリング性能が優れたスポーツカー」と称された隠れた名車。展示されていた944ターボSは1000台の限定生産モデルで、希少価値が高い。
ここ数年、人気が沸騰しているのがランチア・デルタ・HFインテグラーレ。1980年代から90年代にかけて、WRC(世界ラリー選手権)を席巻したというヒストリーを持つ。バブル期の東京では、リアウィングを立てて走るこのクルマの雄姿をしばしば見かけた。しかも、ランチアらしくインテリアは上品に仕立てられており、ラリーを戦う武闘派でありながら、“小さな高級車”という側面もある。つまりラグジュアリー&スポーティ、“ラグスポ”路線のさきがけという見方もできる。このクルマは1995年まで生産されたが、展示車両は日本市場向けの最終ロット、限定250台のコレツィオーネという仕様だった。
クラシックカーの人気が高まるにつれ、自動車メーカー各社が自社の歴史的モデルのレストアや修理、販売を行う部門を立ち上げるようになった。写真は、ヤナセのクラシックカー部門が出展したフォルクスワーゲン・ゴルフ・カブリオ。長年にわたってフォルクスワーゲンを扱い、豊富なノウハウを持つヤナセの手が入っているかと思うと、安心できる。自動車デザインの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロが手がけたスタイリングに、フォルクスワーゲンと長い付き合いのあるカルマン社の幌を組み合わせている。
もし自分がベントレーを手に入れるチャンスがあるとすれば、間違いなくこの年代のモデルだろう。クラシックも最新モデルも、どちらも最低でも2000〜3000万円コースなのだ。やっぱりネオ・クラシックには夢がある! 展示車両は、バブル期の日本で大ヒットしたベントレー・ターボRのロングホイールベース版。排気量6.7ℓのV型8気筒OHVターボエンジンの最高出力は389psと、現代の基準をもってしてもハイパフォーマンスカーだ。
ヤナセクラシックカーセンターの展示車両をもう1台。クルマ通がR107というコードネームで呼ぶメルセデス・ベンツの3代目SLは1972年にデビューして、1989年まで生産された長寿モデル。着脱式のハードトップを外せばオープン2シーターとなる。オープン2シーターといってもギンギンに攻めるスポーツカーではなく、優雅に舞うタイプ。自動車評論の巨匠、故徳大寺有恒さんは、「メルセデスはちょっと枯れて、脂が抜けた頃がいい」と語っていたけれど、この個体を見ると確かにそう思える。
個人的に最もグッときたのは、このシトロエンXMだった。イタリアのカロッツェリア(デザイン工房)であるベルトーネが担当したエクステリアのデザインは、まさにアヴァンギャルド。しかも日本では激レアなMT(マニュアル・トランスミッション)仕様だ。なんとか手が届く範囲の価格だというのがヤバい。けれどもこのクルマは、めっちゃトラブルが多いことでも知られており、新車で買った知人のMさんは当時、「大げさではなく、新車の価格と同じくらい修理代がかかった」とコボしていた。この個体を出展した京都のアウトニーズのホームページを眺めながら、腕組みをする毎日。
最後におまけ。やはりアウトニーズが参考出品していたシトロエンSM。こういうのを見ると、ますます古いクルマの魅力に引き込まれてしまう。
後編に続く
Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。