クルマ業界でいま、最もアツいモデルのひとつがレクサスRXだ。2022年の暮れに7年ぶりにフルモデルチェンジを受けて5代目に移行したこのモデル、ジャーナリストたちの評価も上々であるけれど、アツい理由はそれだけではない。このクルマはいま、欲しくても買えない状況にあるのだ。連載「クルマの最旬学」とは……
レクサスきっての人気モデルが抱える問題
レクサスのホームページを開くと、「工場出荷時期目処のご案内」という欄がある。これによると、レクサスの多くのモデルは新車を発注しても納車までには概ね3ヵ月〜4ヵ月を要することがわかる。けれどもレクサスRXと、その弟分にあたるNXに関しては、「詳しくは販売店にお問い合わせください」となっているのだ。
文面からは、数ヵ月単位では納車できない異常事態であることが伝わってくる。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱と、世界的な半導体不足は、想像よりはるかに酷い事態となっている。
ここ数年、グローバルでレクサスの販売を牽引する2トップがRXとNXだ。特に1998年に初代がデビューして以来、累計で360万台以上がオーナーの手に渡ったRXは、このブランドの屋台骨を支えるモデルだ。モデルチェンジ直後の一番売れるタイミングで生産が滞るというのは、レクサスにとってもユーザーにとっても不幸と言わざるを得ない。
さまざまな意味で話題を集めているレクサスRXとは、いかなるモデルなのか。試乗して、確かめてみた。
新型レクサスRXには、3種類のパワートレーンが設定されている。最もパワフルなのが「デュアルブートハイブリッド」搭載のRX500h、ラグジュアリー路線を行くのがプラグインハイブリッド(PHEV)のRX450h+、そして軽快感にあふれていたのがエンジン車のRX350だ。ここでは、しっとり滑らかな乗り心地と大人っぽいハンドリングの組み合わせが好印象だった、レクサスRX450h+を紹介したい。
ふわりと軽い“天女のはごろも”のような乗り心地
レクサスではハイブリッド車のモデル名に「h」の文字を与えてきたけれど、RX450h+の「+」は外部電源から充電できるPHEVであることを示す。
走り出してすぐに気づいたのは、できるだけエンジンを休ませて、モーターだけで走るEV走行を優先するということだ。市街地程度のスピードだったら、電気の残量に余裕があれば基本的にはEVとして走る。レクサス各モデルの特徴は静粛性にあるけれど、PHEVを搭載することでこの美点がさらに強調される。
資料によれば、満充電の状態で86kmのEV走行が可能とある(WLTCモード)。EV走行時に、積み上がっていく走行距離と、次第に減っていく航続可能距離の相関関係を見ていると、86kmの7〜8割程度がリアルな航続可能な距離であるようだ。
試乗した日がまだ肌寒く、電力を消費するエアコンを稼働させていたという理由もあるかもしれない。仮に60kmのEV走行が可能だとすれば、買い物や送り迎えなど、平日はEVとして使うことができる。
EV走行を優先することとともに、もうひとつ印象に残ったのが穏やかな乗り心地だ。軽く2トンを超えるヘビー級の車体でありながら、重厚というよりも、ふわりと軽い。欧米の自動車専門誌には「マジックカーペット・ライド(魔法のじゅうたんのような乗り心地)」という表現があるけれど、このクルマの乗り心地はそれの日本版、「天女のはごろもライド」といったところか。
静粛性の高さとこの乗り心地によって、まさにプレミアムSUVにふさわしい乗車体験が提供される。興味深いのはワインディングロードに入ると、スポーツSUVの顔も見せることだ。
感銘を受けるのはハンドル操作、ブレーキ操作に対する反応が正確なこと。特に、ほんのちょこっとハンドルを切ったり、微妙にブレーキをかけるような操作に繊細に応えてくれることがうれしい。モーターとエンジンの連携もばっちりで、極低速から力を発生するモーターと、高速域で伸びやかに回るエンジンが、いいコンビになっている。
ドイツ御三家の重厚さとも、イタリア車のパッションとも違う、レクサスらしいきめ細やかな「おもてなし」がついに完成の域に入りつつある、というのが新型RXの印象だ。
従来型のRXは、「ちょっとデザインが煩雑」という声も聞かれたけれど、新型はボディとレクサスのアイコンであるスピンドルグリルが一体化して、カタマリ感のある造形になっている。パフォーマンス、デザインともに、いままで以上に多くの人に受け入れられるはずだ。これは売れる! と思ったところで、冒頭の供給不足に話が戻ってしまう。
レクサスは、対面での商談などの条件を定めた抽選販売枠を500台用意したけれど、これはおそらく転売屋対策だと思われる。クルマの仕上がり具合が上々だけに、現在の状況が残念でならない。
問い合わせ
レクサスインフォメーションデスク TEL:0800-500-5577(フリーコール)
Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。