経営者には必須の運転手付きのクルマ。今選ぶなら何がいい? 今回は、他人とは一線を画すショーファー・ドリブンとして、新型レクサスLX600を提案する。自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載7回目。【連載クルマの最旬学】
行けないところはない、と思わせる悪路走破性能
いま、運転手付きのクルマ、ショーファー・ドリブンをお探しの方にぜひお薦めしたいのが、レクサス「LX600」だ。「えーっ、あれって質実剛健なランクルの“オシャレ豪華版”じゃないの?」という声が聞こえてきそうなので最初に説明しておくと、トヨタのランドクルーザーとレクサスLX600の土台は確かに共通だ。ただしランクルを開発してからそれをゴージャスに盛ってLXに仕立てたわけではない。
開発段階からランクルのエンジニアとレクサスのエンジニアが膝を突き合わせて、実用的なランクルの方向にも、ラグジュアリーなLX600の方向にも、どちらにも振れるような土台を築いたという。実際に試乗してみると、レクサスLX600は快適さといい静粛性といい、ランクルとはまた別のSUVだった。
プレミアムSUVの試乗会としては珍しいことに、新型レクサスLX600のテストドライブはオフロードコースから始まった。富士スピードウェイの敷地内に造成されたオフロードコースは、いずれ顧客向けに開放することを想定したもので、かなり本格的で難易度の高いコースだ。
まず対面したのは、巨大なコブが連続するエリア。レクサスLX600は、4本のタイヤのうちのひとつが宙に浮くような状態でも、悠々と前進する。続いて、急勾配に大きな岩が連続するエリアへ突入。ここでは、オフロード走行をアシストするクロールコントロールのスイッチをオンにする。
クロールコントロールとは、駆動力とブレーキ油圧を自動で制御しながら極低速で走行する仕組み。ドライバーは5段階で調整できる速度を設定した後は、アクセルとブレーキの2つのペダルの存在を忘れて、ハンドル操作に専念できる。するとレクサスLX600は、まるで熟練のドライバーが駆動力を調整しているかのように、驚くほどスムーズに難所を進む。
登り斜面で、フロントガラスいっぱいが青空という状態になっても不安がないのは、モニター画面にドライバーからは見えない路面の画像が映し出されているからだ。だから安心して、コースアウトしないようにハンドル操作をすることができる。
正直な話、これくらいの悪路を走破するSUVは、いくつか存在する。ただしレクサスLX600がアタマひとつ抜けていると感じたのは、ただ悪路を走れるというだけでなく、心地よく走ることができる点にある。
タイヤが浮くほどボディがねじれてもミシリとも言わない強靭なボディ。路面の状態をしっかりと伝えるハンドルの手応え。段差を越えてもドスンというショックを伝えることなく、じんわりと着地する懐の深いサスペンション。そして、キメ細やかにコントロールされた電子制御システム。世界中の“現場”で絶大な信頼を得ているランクル譲りのタフさと、レクサスらしいもてなしの心が見事に融和している。
レクサスというブランドを語る時に、「もてなし」という言葉が使われるけれど、こうした悪条件で受けるもてなしほど嬉しいものはない。厳寒の地で出されるお茶とか、砂漠のど真ん中で供される氷菓子のように、身体に染み入る。
心に平穏をもたらす後席の空間
といった、圧倒的なヘビーデューティ性能を味わってから、後席に座る。
従来のレクサスLXのグレードはひとつだけだったけれど、新型LX600は標準グレードのほかにオフロードでの走破性能を高めた“OFFROAD”と、後席を2座にした定員4名の“EXECTIVE”の計3グレードをラインアップする。標準グレードと“OFFROAD”には、定員7名の3列シート仕様も設定される。
ここで、“EXECTIVE”の後席に腰掛け、一般道や高速道路での快適さを堪能する。
助手席の後ろに座り、後席センターコンソールのコントロールパネルでリラックスモードを選ぶ。すると助手席が前方に移動して足元のスペースが拡大するとともに、シートがリクライニングする。NASAが提唱する最もリラックスできる姿勢を参考にしたという背もたれの角度は、なるほど絶妙だ。無重力というか、身体がふんわりと宙に浮いているように錯覚する。オットマンを引き出して足を載せると、車内で寛ぐスタイルは完成だ。
ハーシュネス(路面からの突き上げ)を巧みに遮断することと、室内を静かに保つことはもともとレクサスの十八番だったけれど、このLX600でもその長所は健在だ。考え事をするのにも最適の空間だし、“EXECTIVE”に標準装備されるマークレビンソンのサウンドシステムが奏でる音楽もクリアに耳に届く。
一般に、乗り心地やスポーティな操縦性を求めて、最近のプレミアムSUVは乗用車と同じモノコック構造を選ぶ傾向にある。けれどもレクサスLX600は、あくまで強さと耐久性、そして悪路での走破性能を追求して、昔ながらのラダーフレーム構造にこだわっている。
現在、ラダーフレーム構造を採るSUVは、メルセデス・ベンツのGクラス、ジープ・ラングラー、スズキ・ジムニーなど、限られたモデルになっているけれど、レクサスLXは快適性向上には不利だとされるラダーフレーム構造を、これだけラグジュアリーな空間に仕上げたという点で称賛したい。気は優しくて力持ちという、世界でも稀な存在で、だからこそショーファー・ドリブンをお探しの方にお薦めしたい。
砂漠を越えてパイプラインの視察に行くわけではないから、こんなに本格的な能力は必要ない、という意見もあるでしょう。けれども、300m防水のダイバーズウォッチをつけると勇気と活動的な気持ちが盛り上がるのと同様に、このクルマで移動することは自信と活力を与えてくれると思うのだ。
そしてもしこのクルマを手に入れたならば、一度はオフロードコースを訪れて、その底知れぬポテンシャルを体感してほしい。レクサスLX600に対する信頼感が、さらに増すはずだ。
問い合わせ先
レクサスインフォメーションデスク TEL:0800-500-5577(フリーコール)
TAKESHI SATO
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。