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2023.10.31

モランディの展覧会が見たくて、ミラノに行ってきた――アートというお買い物

ジョルジョ・モランディ。描いたものもいいし、色も好き、画家が走らせた筆の跡もしのばれる。そして彼のいいところは美術史の中でもまったく独自に存在していることだ。彼の前に彼のような絵はなく、受け継ぐ者はいない。5年前、レンタカーを借りて、モランディのサマーハウスを見にいった記憶と重ねて、絵を見ていた。■連載「アートというお買い物」とは

ジョルジョ・モランディ

壺や水差しをひたすら描き続けたイタリアの巨匠

20世紀のイタリアを代表する画家、ジョルジョ・モランディのことは知っているだろう。たぶん、あの、壺や瓶や水差し、花なんかをひたすら描き続けた画家でしょ? くらいに。日本でも2016年には、東京ステーションギャラリー、1998年には東京都庭園美術館で展覧会があった。実は2011年にも展覧会の企画が進んでいたのだが、東日本大震災と原発事故のため、中止になり、展覧会図録だけが作られた。

そのモランディの大規模な展覧会がミラノのドゥオモの広場の一角にある美術館、パラッツォ・レアーレで開催されるというので見に行ってきた。「Morandi 1890-1964」という展覧会。1890は生年、1964は没年だから、意訳すれば「モランディの生涯」というようなもの。以前、ボローニャの美術館でも多くの作品を見る機会があったが、今回もとてもていねいに良質の作品を集めた展覧会になっていた。

モランディはボローニャの街中に住居兼アトリエを構え、そこにあの瓶とか、壺とかを大量に集めて、絵を描いていた。特にある時期からは風景画を少しと花の絵とあの瓶などのオブジェをひたすら描いたのだった。色合い、静謐さ。いつの時代もモランディのファンは多い。

今回の展覧会では20代前半に描いた作品や形而上絵画の影響の見えるものも出ていて興味深かった。モランディの絵は見ていて飽きない。とてもとても買えるものではないけれど。たとえば自分のおじいちゃんとかが買って、うちにもあるよ、なんてことを夢想するね。祖父が買ったときはまだ若手の画家で安かったみたいですよ、なんてね。

実は僕はモランディの絵が好きすぎて、2018年にボローニャのアトリエを見学に行ったことがあった。彼が過ごし、絵を描いた部屋はそのまま保存されていて、オブジェや資料もストックされ、おそらく財団になっているのだろう、スタッフの人たちが働いている。

ジョルジョ・モランディ
5年前に訪れたボローニャ、フォンダッツァ通りのモランディの家。アトリエと寝室が一体になっている。撮影/鈴木芳雄

モランディは12ヵ月のうちの9ヵ月をボローニャ、フォンダッツァ通りの家で過ごし、夏の3ヵ月をボローニャ郊外のグリッツァーナの別荘で過ごした。そこに行って以来、モランディの絵を見て、これはどちらの家で描いたのかがわかるようになった。おいてあるオブジェは似たものがあるけれど、まず、光が違う。それはグリッツァーナの絵は夏の光で描いているし、あの家には窓がたくさんある。あの薄暗いボローニャの家とはまるで違う。そして、絵の背景となる壁の色が違うからわかる。青っぽい。

ジョルジョ・モランディ
ジョルジョ・モランディ《静物》1960年

ボローニャでレンタカーを借りて、イタリアの街中の運転は大変だったけど、都会の喧騒を逃れてしまえば、ドライブは楽しい。ただしイタリアではいまだに小型車はマニュアルシフトのクルマがほとんどだし、しかも左ハンドルで右手でシフトするのに慣れればね。そして右側通行であの、日本とは違って頻繁に現れるラウンドアバウトさえ、うまく攻略できれば。

ジョルジョ・モランディ
ともに、ジョルジョ・モランディ《静物》1956年

モランディの机の引き出しの中には、ジョットやマザッチオの小型の画集が入っていた。こういう古典を見たりもしていたのか、いいなとか。で、自分ではこんな絵を描いていたのかと。

僕がそこを訪れたときは晩夏でモランディの毎年の夏の滞在が終わる頃の時期。彼はこんな景色を見て、だいぶ涼しくなった風を感じて、ボローニャのあのとても密度の高いアトリエに帰っていったのだろう。

ジョルジョ・モランディ
ジョルジョ・モランディ(1890年7月20日ボローニャ生まれ - 1964年6月18日ボローニャにて没)。さまざまな様式、ムーヴメントが生まれた20世紀の美術界にあって、初期は未来派や形而上絵画の一派と接触しつつも、独自のスタイルを確立し貫いた。晩年、パリに旅行したこともあるが、イタリアをほとんど出なかった。独身を通し、妹たちと暮らした。

MORANDI 1890 - 1964
会期:〜2024年2月4日
住所:Milan, Piazza del Duomo, 12
TEL:+39 02 884 45 181
休館日:月曜・祝日
開館時間:10:30〜19:30(木曜〜22:30)
入館料:一般17ユーロ

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。

■連載「アートというお買い物」とは
美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

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アートというお買い物

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

TEXT=鈴木芳雄

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