東京・青山にある「ARTS&SCIENCE」はスタイリッシュなセレクトショップで、店舗の内装は建築家の田根剛が手がけ、店前には彫刻家、青木野枝によるオブジェがあったりする。そしてこの度だが、オリジナルでちょっと不思議なスカーフを作って売っている。そのスカーフにプリントされているのは大正時代生まれの画家「ユアサヱボシ」のシュールな作品!? ■連載「アートというお買い物」とは
ARTS&SCIENCEのコラボ相手は大正時代生まれの画家!?
「ARTS&SCIENCE(アーツ&サイエンス)」は東京、京都、福岡に直営店を構えるセレクトショップで、オーナー兼クリエイティブディレクターはソニア・パークさん。そのARTS&SCIENCEは美術家による作品と、日用品やファッションにまつわる“もの”をクロスオーバーさせる〈ANOTHER CRAFTS〉という試みをスタートした。その第一回は画家・ユアサエボシによる企画となった。
画家、ユアサエボシは1983年千葉県生まれ、千葉県在住。澁澤龍彦の著作を通じて知ったシュルレアリスムの影響を受けたユアサは、大正生まれの架空の三流画家、ユアサヱボシ(1924-1987)に擬態(!)し、福沢一郎や山下菊二ら往時のシュルレアリスムに根ざした表現者たちが描いた絵画の雰囲気をたたえた作品を制作する。つまり、ユアサヱボシという架空の作家の人生を巧妙に組み立て、そこに作品を当てはめていく創作を行っているのだ。主な展覧会に、2022年「高松コンテンポラリーアート・アニュアル ここに境界線はない。/?」高松市美術館(香川)、「奇想のモード:装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」(東京都庭園美術館)がある。
そのユアサは2023年1月~3月に銀座のギャラリー小柳で、陶磁器、タイルなどの研究者であり、作品を制作する作家でもある中村裕太(1983年東京生まれ、京都在住。京都精華大学芸術学部准教授)との二人展「耽奇展覧」を開催した。その展覧会でユアサが発表した静物画全10点をモチーフに、ARTS&SCIENCEがシルクのスカーフを制作したのが〈ANOTHER CRAFTS〉第一弾というわけだ。
二人展「耽奇展覧」はユアサエボシと中村裕太がそれぞれ感じ、制作した耽奇なるものを披露する展覧会となった。歴史をテーマに軽やかに遊ぶユアサと中村の「ものによる学び Object Lessons」の試みだった。
それにしても、1点1点繰り出されるユアサ描くシュルレアリスティックな作品には強烈な個性と味わいがある。そんな作品を10点も詰め込んだスカーフ。広げないとその独特世界はわからないので、そこは持ち主だけが図柄をふと思い出し、「フフフ」となってしまうもの。
ARTS&SCIENCE AOYAMAにてユアサエボシ作品が2023年10月5日まで展示されている。これらはすべてARTS&SCIENCE所蔵のコレクション。
Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。
■連載「アートというお買い物」とは
美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。