こんなのあるの知ってた? 持ってる? 美術品だとか工業製品とかに限らず、見せ合い、自慢し合うのはいつの時代も同じようだ。骨董屋や古物市に足繁く通い、知識と目利きを武器に掘り出したものを披露する。ときに新たにものを生み出して、見るものを感心させたい、圧倒したい。その企みもわかる。さてさてそんな展覧会と催しがあったので報告。さらに記録動画もリンクしておいた。連載「アートというお買い物」とは……
珍しいもの、キッチュなもの、変なものはみんな好きだから
すでに会期は終了してしまったのだが、銀座のギャラリー小柳で「耽奇展覧」という展覧会があった。
日本近代の工芸文化に関心を寄せ、「民俗と建築にまつわる工芸」という視点から陶磁器やタイルなどの学術研究と作品制作を行なっている研究者で作家の中村裕太と、自身を大正時代生まれの架空の画家「ユアサヱボシ」に擬態し、福沢一郎や山下菊二ら往時のシュルレアリスムに根ざした表現者たちの絵画の雰囲気をたたえる作品を制作する画家ユアサエボシの二人展だった。
江戸時代後期に曲亭馬琴など当時の好事家たちが珍奇な古書画や古器物を持ち寄って論評しあった「耽奇会」なるものがあったのだが、その図譜である『耽奇漫録』の復刻版(オリジナルは1824〜25年)を中村が古書店で探しあてたことから、当節の自分達にとってのそれぞれの「耽奇なるもの」を考察し、それを展覧会という形で発表したものだ。
中村はこれまでの調査をもとに制作した陶器を発表する。ヤーコプ・フォン・ユクスキュル『生物から見た世界』(1934年)の挿絵を陶器作りに掛け合わせているが、古書マニアらしく、自身が収集したさまざまな版の『生物から見た世界』をともに並べる展示となっていた。
一方のユアサは大正時代生まれという設定でその時代の事物の図版をもとに絵を描いてきたが、今回は骨董市に通い、そこで見つけた実物のオブジェを描いた。
「耽奇展覧」はなんともユニークな展覧会ではあったのだが、その関連イベントとして「今様耽奇合戦」が開催され、中村とユアサが持ち寄る「耽奇なるもの」を鑑賞し、またアーティストや趣味人もそれぞれが持つ「耽奇なるもの」を披露して、驚嘆、感嘆しようという会が催された。司会進行は東京国立近代美術館主任研究員の成相肇がつとめた。
中村とユアサは3点ずつ持ち寄ったが、最初に中村が見せたのは、曽祖父が入手した「鳴徳利《萩焼千鳥瓶》」。会場で実際に酒を入れ、注いでみせたところ、見事に「ぴよぴよぴよ」と鳴いた。展覧会ではこれを模した陶器を発表したが、そちらはうまく鳴かなかったとのこと。
ユアサはなんともキッチュなオブジェを取り出したが、これはある植物の拡大標本なのだという。海外の古物を扱うネット通販サイトで入手したとのことだった。聞けばゼニゴケの断面を拡大して見せているもののようだ。学校の理科室などに置いてあるものだろうか。やれ、阿部展也の絵のようだ、やれ、梅津庸一のオブジェのようだとそういう議論も楽しい。
アーティストの毛利悠子は山口県秋吉台で買ったお土産(有名キャラクターが描かれているが明らかに著作権許諾を得ていない石のプレートに自分の名前を入れてもらったもの)、『スター・ウォーズ』の中国語版コミック『星球大戦』、そして、『バットマン』登場キャラクターが入れ子になっているマトリョーシカを出品した。
ニューヨークのフリーマーケットで一度は通り過ぎたけど、でも気になって戻って買ったマトリョーシカ。値段は「けっこう高かった」(毛利)。普通はキャラクターをベース全体に広げて描くというマトリョーシカの描画の作法をまったく無視して、ただバットマンはじめ悪役キャラなどがそれぞれ描かれている素人くささが良いといえば良い。
さて、次は1970年代、いろいろあったオカルト・超能力ブームの中でも一世を風靡した超能力者ユリ・ゲラーの曲げたスプーンが登場した。
スプーン曲げというのは、スプーンの首を軽くこするだけで、あら不思議、ステンレスのスプーンが鉛の棒のようにぐにゃりと曲がってしまうのだ。これで一番有名なのがイスラエル出身の超能力者ユリ・ゲラーだった。
テレビカメラの前でスプーンを曲げ、テレビスタジオにいる出演者もスプーンを曲げられるようになり、テレビから超能力を送り、視聴者の家にある壊れた時計が動き出すなどのショーを見せた。
この持ち主はなぜこれを持っているかというと、彼は玩具メーカー勤務で、ユリ・ゲラーから新作おもちゃのアイディアのプレゼンを受けたのだという。そのおもちゃは「超能力が身に付くおもちゃ」だったそうだ。
この「今様耽奇合戦」に僕も参加した。
出品したのは「おそらく世界初のラップトップコンピュータ」。
こういうものだ。
付けた説明書きはこんな感じ。
「米コンピュータ専門誌『BYTE』が“たぶん(perhaps)最初のラップトップ”と記述するHC-20(輸出形式番号:HX-20)。エプソンが1982年7月(40年以上前!)に136,800円で発売。CPUは6801、RAM16KB、マイクロソフト製BASICが走る。内蔵電池により最大約50時間の連続稼動。20字4行の液晶表示、プリンタ、マイクロカセットによるデータ保存機能がオールインワン。コンピュータの領域で日本が世界の先駆けというものはほぼ無いがハンドヘルド(ラップトップ)に関してはこれが世界初」
アップルの初代Macintoshのリリースが1984年なので、その2年前にこんなコンピュータが日本製で製造販売されていたのだ。しかも、Macとは違ってバッテリー駆動だし、プリンタまでオールインワン。
でも、コンピュータを使うこと=BASICを打ち込むこととかはもう時代遅れだったんだな。この頃、Macとそれに先行する同じくアップルのコンピュータLisaではGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)の開発が進められていたわけで。
会場からは、今こそこのラップトップを持ってスタバにでも行って、ノマドワーカーたちのマウントを取れとのお言葉をいただきました。
さて、この「今様耽奇合戦」、アーティストやキュレーター、コレクターなど20人くらいが参加して、盛り上がったのだった。アーティストでは前述の毛利悠子のほか、佐藤允や泉イネ、当日、ニューヨークにいて本人は参加できなかったが、ものは展示した杉本博司が参加している。
出品されているものも、新興宗教の教祖様が息を吹きかけた紙でいろいろご利益があるのだという「おいきがみ」とか、1664年パリで出版されたデカルトの『情念論』の本、パリの蚤の市で買った鍵穴のプレートなどや美術史的に重要な資料(?)というか断片というか、さまざま。
興味のある人は以下にフルバージョンの動画を貼っておくのでご覧ください。2時間半ほどあり、ちょっとCM多すぎなのだが、きっと楽しめるはず。世の中には変なものを持ってる人がいるなぁという感じで。
会場では、これはシリーズ化したいとの声も上がっていて、それは実現しそうな勢いだ。
Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。
■連載「アートというお買い物」とは……
美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。