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2021.02.19

【三木谷浩史×佐藤可士和 対談】17年最高のビジネスパートナーの秘訣

稀代の経営者・三木谷浩史と天才クリエイター・佐藤可士和。出会ってから17年間、初心からブレることなく、同い年のふたりで走り続けた結果が、楽天を流通総額19兆円の大企業へと押し上げた。対談後編をご覧ください。(前編はこちら

三木谷浩史×佐藤可士和

楽天の最大の特徴はスピード感

三木谷 24年前にインターネットという新しい仮想空間に楽天市場が生まれ、4G、5Gもできた。いろいろ問題があり、簡単ではなかったけど、そこに果敢にチャレンジできる時代に、可士和くんみたいな天才クリエイターに出会えて僕は本当によかった。可士和くんにはビジネスパートナーとしての相談もするし、「これはウケる? ウケない?」なんて話もする。感覚がとにかく鋭く、単なるクリエイターじゃない。「これからのビジネスにはロゴがより重要な意味を持つよ」とか、デザインを超えた先まで見ている。俯瞰力(ふかんりょく)もあるし、本質を見極める力があるからね。人間の脳は仮想空間になればなるほど、ブランドのアイデンティティが必要。何か買わなきゃと思ったら楽天市場で買おうとか、クレジットカードだったら楽天カードにしようとか、人が何かをしようと思った時に楽天を想起してもらうことが大事なんです。可士和くんは、それを考えられる人。ビジネスセンスがすごい。だからとても心強い存在です。

佐藤 ありがとうございます。楽天は僕にとってクライアントでもあるけれど、ミッキー自身が友人でもある。だから楽天をどうしたらよりよくできるか、一緒に参加している感覚で仕事をしています。頼まれてやるというより、僕も未来の楽天を見たいから、社内にデザインラボを立ち上げたほうがいいとか、楽天カードマンやお買いものパンダのような、アイコニックなもののほうが、コミュニケーション的にフレンドリーだとか。

三木谷 僕が戦隊モノみたいなもの(楽天カードマン)をつくりたいというような、無茶な頼みも形にしてくれたね。

佐藤 無茶も多いです(笑)。けれどさっきのプロ野球への参入とか、FCバルセロナと組むとか、素晴らしい驚きはいっぱいあれど、ネガティブな驚きはないんです。それはちゃんと並走できているからだと思う。

三木谷 僕らふたりが逸(そ)れないよう、お互いの考えを頻繁にすり合わせているよね。

佐藤 楽天という企業の最大の特徴はスピード感。ミッキーの脳が超高速回転だから、会社自体もすごいスピードで動く。ついていく社員は大変だと思う。僕自身もそのスピード感をキャッチアップしていかないと、と思っています。常に対話のなかからミッキーの考えている未来を摑み、どうビジュアライズするかを17年間途切れずにやっています。

三木谷 振り返ればあっという間の17年。でもあともう17年ぐらい、お願いしますよ。

佐藤 はい(笑)。

三木谷 改めて可士和くんとの仕事を振り返ると、やっぱり楽天カードマンには驚いたな。なにそれ? カードマン? 強烈だねと(笑)。

佐藤 それまでのクレジットカードのコマーシャルは、情緒的で、なんとなくいい感じの人間ドラマみたいのが主流だったじゃない? だから楽天カードは従来とはまったく違うやり方で「楽天カードマーン♪」とコマーシャルの冒頭に強烈なサウンドロゴを入れて、最初の3秒でカードの名前を認知してもらう作戦に出ました。人間は同じものを何度も見せられると自然と覚えるから、あえて変えずにずっと使っていくことで多くの人の記憶にも残ったと思う。

三木谷 楽天カードマンは大成功でした。クレジットカード取扱高国内ナンバーワンを達成し、今も会員数は順調に増加しています。サービス内容もそうだけど、アイデンティティマネージメントという意味でも大成功したなと思っています。

佐藤 僕の仕事は事業部とデザインラボや広告代理店のクリエイティブチームをディレクションして、ミッキーに見せる段階まで仕上げること。なので企画をチェックする時は、ミッキーになりきったつもりで見ています。「これじゃインパクトないねって言われるよ」って。人の心に強烈に残るかどうか、そこはブレずに判断しています。

お金儲けだけでなく、世の中をよくしたい

三木谷 可士和くんとはミーティングだけでなく、定期的に食事へ行ったりもしますが、そのなかのたわいのない話から今後の企画のアイデアになるようなものも出てくるよね。

佐藤 いわゆる雑談のなかで、世の中をどう見ているのか、何を感じているのかを確認し合うのですが、それがビジネスになっていくんです。

三木谷 雑談ですよ、雑談。

佐藤 その雑談が大事なんです。決まったことだけ話していても、新しいものは生まれないから。

三木谷 そうだね。最近でいうと楽天ファッションかな。今までの強烈なイメージから、洗練されたイメージへと移行したい。可士和くんにクリエイティブも含めたプロデュース戦略をやってもらい、数多のファッションサイトがあるなかで、楽天のポジションを強固なものにしたい。そのために「ファッションウィークのスポンサーやっちゃう?」みたいな話に始まり、単純にスポンサーをやるよりは、まずはファッションデザイナーから好かれるプランナーに楽天がなっていかないと、と話しています。

佐藤 そういう未来の話も雑談のなかから生まれていく。モノの買い方とか、ファッションへの意識がここ何年かで変わっているから、ネットで服を買うことの意味合いも変わってきているとか。

三木谷 うちの強みは、銀行や証券から、干物屋からラグジュアリーブランドまで網羅しているということだから。

佐藤 この全方位感がすごい。ミッキーはあらゆる力を使って、世の中をよくしたいという気持ちはずっとブレていない。

三木谷 企業は何のために存在するのか。やはりお金儲けだけでなく、世の中をよくしたい、エンパワーメントしたい。資本主義の基本はそうじゃないかと。

佐藤 ミッキーはこれからどこまで行きたいの?

三木谷 エンドレスジャーニーですよ。今後重要だなと思うのは環境問題への取り組み。2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロにするという宣言に倣い、楽天も先陣をきって進めています。それと楽天がグローバルブランドになることですね。

佐藤 わかりました。これからも一緒にやりましょう。

 

17年間にわたる三木谷×可士和の仕事の軌跡(2016~2020)

クライアントのなかでも、最も長い間携わってきたのが楽天。これまでの楽天との主な仕事を紹介する。

楽天ドローン

2016年 空へと広がる楽天の配送網
ドローンを活用した配送サービス「楽天ドローン」を開始。離島や山間部での活用を進めている。ドローンをピンク色にしたのは三木谷氏の発案。

FCバルセロナ

2016年 Rakutenの名が世界で轟く
スペインの名門サッカークラブ「FCバルセロナ」とのパートナーシップを結ぶ。現地を訪れた佐藤は飲食店で楽天のロゴをデザインしたというと驚かれたという。

携帯キャリア事業へ新規参入

2017年 三強の携帯キャリアに切りこむ
楽天が携帯キャリア事業へ新規参入を表明。2020年からサービスを本格的に開始。女優の米倉涼子氏を起用したCMにより認知度も一気にアップした。

楽天デザインラボ

2018年 デザインがブランド戦略をリードする
佐藤の指揮のもと発足された「楽天デザインラボ」。デザインの力によって楽天のビジネスをより加速させるために活動を行っている。

グローバルロゴ

2018年 新たなる挑戦への決意表明
多彩なサービスを通して、人々の生活にイノベーションを起こしてきた楽天。次のステージに向け、漢字の「一」をモチーフにしたグローバルロゴに一新。

ワンデリバリー

2018年 楽天独自の配送ネットワークを構築
包括的な物流サービスを提供する「ワンデリバリー」構想の実現に向けた取り組みを本格化。購入から配送までを一元管理し、より顧客満足度を上げる狙いだ。

パシフィコ横浜

2019年 これからの未来を体感!

パシフィコ横浜にて、楽天グループとして史上最大規模のイベントを開催。5Gが体験できる催しや小山薫堂氏、三木谷氏、佐藤のセッションも行われた。

Rakuten Fashion

2019年 ユーザーによりよい買い物体験を提供
ファッション通販サイト「Rakuten BRAND AVENUE」のサイトデザインを一新し、サービス名称も「Rakuten Fashion」に変更。ファッション事業を強化した。

ソーシャルディスタンス

2020年 ソーシャルディスタンスの周知に貢献
新型コロナウイルス感染拡大抑止に向けて、楽天グループを挙げて啓発活動を実施。三木谷氏の依頼により佐藤が急ピッチでポスターやロゴを作成した。

グローバルフォント

2020年 グローバルフォントのデザインを一新
ロンドンのDalton Magg社と、ウェブサイトやアプリなどで使用する新フォントセットを開発。サービスの内容や用途によって4種類のフォントを使い分ける。

 

Hiroshi Mikitani
1965年兵庫県生まれ。日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て、1997年楽天を設立。同年「楽天市場」を開設。現在は70以上のサービスを30の国と地域にある拠点から世界に展開している。

前編はこちら
【三木谷浩史×佐藤可士和 対談】経営者と天才クリエイターの二人三脚

TEXT=今井 恵

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