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2021.02.18

【三木谷浩史×佐藤可士和 対談】経営者と天才クリエイターの二人三脚

稀代の経営者・三木谷浩史と天才クリエイター・佐藤可士和。出会ってから17年間、初心からブレることなく、同い年のふたりで走り続けた結果が、楽天を流通総額19兆円の大企業へと押し上げた。対談前編をご覧ください。(後編はこちら)

三木谷浩史×佐藤可士和

2003年、六本木(当時)にあった楽天のオフィスにおいて、篠山紀信氏によって撮影された一枚。写真集『六本木ヒルズ×篠山紀信』(小社刊)に掲載されている。

17年続く強い絆と並走の日々

ーー佐藤可士和が博報堂から独立して3年後。初めて佐藤に企業ブランディングを依頼した男が、楽天の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏だ。同じ1965年生まれ。佐藤が2月11日で三木谷氏が3月11日生まれと誕生日も近い。「ミッキー」「可士和くん」と呼び合いながら、驚くほどのスピードで膨大な量の仕事をこなし、この17年の間に楽天は70以上のサービスを提供する企業へと発展した。それもこれもふたりがどんなに忙しくても、17年間毎週のように顔を突き合わせ、楽天の未来を徹底的に話し合い、対話を重ね続けたからこそ。現在はコロナ禍という状況もあり、対面のミーティングはオンラインに変更。今回の対談もリモートで行われた。

三木谷 もはや楽天イコール佐藤可士和ですよ。

佐藤 そんなこと言って(笑)。

三木谷 1997年に楽天を設立し、同じ年に楽天市場(インターネット通販のショッピングモール)をスタートしました。最初は日本をイメージさせようと、毛筆体で「楽天市場」と書かれたロゴだったこともあり、ファッションの店舗のページを見たお客様から、「着物を売っているんじゃないの?」と言われたことも。そのため、自分たちが思うような自由な“楽市楽座”を、ちゃんと表せるブランディングをしていかなければ、という思いがあった。

佐藤 そうでしたね。

三木谷 楽天のネットショッピングが大きくなっていくなかで、ブランドアイデンティティも重要だと思い「さあ、どういうブランディングをしようか」と考えていた時に、可士和くんを知人から紹介された。実際に会って話してみたら「あ、この人は今までのデザイナーとは違うタイプの方だな」と思ってね。

佐藤 ありがとうございます。

三木谷 強烈なインパクトとして残る“コーポレートアイデンティティ”や、“ブランドアイデンティティ”をお願いしますと依頼したんですよね。実際、可士和くんと話しているうちに、雲のようにぼんやりしていたそれらのアイデンティティが、より具体的なものになっていったという感じがした。

佐藤 初めてふたりで会った時、ミッキーは、楽天を「日本を代表する新しい会社」にしたいと言っていて、僕はそれがとても素晴らしいと思った。インターネットの力を使って、今までにない「新しい会社」を作るんだということだったので、僕自身はその時に言われたディレクションを、今も忠実に守っている気持ちなんです。

三木谷 僕は最初、日本興業銀行に勤めていて、もともとインターネットショッピングをやろうと思って起業したわけではない。大言壮語になるけど、当時、「今の日本は製造業が中心だけれど、世の中はここから変わっていく。今のままだと日本はダメになっちゃうのではないか」と危惧(きぐ)したわけ。

佐藤 どう危惧したの?

三木谷 世界においていかれると。日本でもITベンチャーみたいなものがどんどん出てきて、世界に勝負していくようじゃないとダメだと思ったんです。

佐藤 当時はまだ本当に少なかったよね。

三木谷 僕らが成功するかはわからないけど、ここはチャレンジしてみる意味があるんじゃないかと。そのためのスターティングポイントが、インターネットショッピングだったんです。

佐藤 楽天のマーケティングで僕が本当に新鮮に感じたのは、2004年の東北楽天ゴールデンイーグルスのプロ野球参入。普通ではできない経験を一緒にさせてもらった。

三木谷 ああいうシーンは、なかなか経験しないよね(笑)。

ビジネスはルールごと変えられる

佐藤 ふたりで楽天のマーケティングを今後どうしていくかを、ディスカッションしていて「テレビコマーシャルをつくるか?、街をジャックするか?」など、いろいろな案を検討していたら、突然ミッキーが「プロ野球やるのどう?」って言い出して。

三木谷 あははは。

佐藤 ちょっと前にJリーグのヴィッセル神戸のオーナーになったばかりだよね。僕がヴィッセルのロゴをデザインして(笑)。

三木谷 そうだったね。

佐藤 当時、近鉄がバファローズで年間何十億もの赤字が続いていた。でもそれをマーケティング費用と考えればいいかと話していたら「いや、1年じゃキツいけど、2、3年あれば黒字にできますけどね」とミッキーが言ったのにも驚いた。「えっ? 近鉄が何十年も赤字だったのに、黒字にできるの?」と言ったら、「こうやって、こうして、こうすればできますよ。すぐだとキツいけど、できますね」と説明されて僕は心底驚いた。僕はデザインの世界においては、例えばあまりよくないものを見ると、「ここが問題で、これをこう直せばすぐに機能するようになる」というようなことが瞬時にわかるんだけど、ミッキーは経営でそれが見えている人なんだなと思った。実際に初年度で黒字にしたよね?

三木谷 はい。

佐藤 その実現力たるや。ミッキーはビジネスや経営そのものをデザインしている人なんだとわかり、それはすごいことなんだと思ったね。

三木谷 楽天市場ができた時も、世の中の99.9%の人は「インターネットのなかで物は売れない」と思っていた。だからあえていえば、僕は人とは少し違う見方をする、既成概念に捉われないタイプなのかも。プロ野球に参入した時も、それまでの野球の物質的な価値はチケット販売とかだった。でも僕は企業にスポンサーになってもらうだけでなく、体験を盛りこむイベントをやろう、周辺の土地はお客さんが楽しめる遊園地にしてしまおう、決済もキャッシュレスにしてしまおう。そう考えたんです。みんな今は真似を始めたけどね(笑)。言い方は悪いけど多少強引に、「やっちまえ」と。やったらなんとかなると考えてやった。ほとんどの人が正面から見ているとしたら、僕は上からや、下からや、横から見たりしているんでしょうね。モノにはいろんな形で収益とか、付加価値があるんですよ。

佐藤 なるほどね。

三木谷 だって野球が好きとひとくくりにいっても、試合が好きな人もいれば、家族で球場を訪れるのを楽しむ人もいるだろうし、特定の選手のファンもいるからね。最近のビジネスパーソンは、ビジネスを表計算にすることだと思っているんだけど、スプレッドシートを仕上げて満足するのではなく、今までと違うスプレッドシートを考える必要があると思うんです。

佐藤 そういう発想とか、ビジネスの捉え方自体が面白いよね。それってバンカーの発想なの?

三木谷 バンカーというほどのバンカーじゃなかったけど(笑)。スポーツでルールは変えられないけど、ビジネスはルールごと変えられると思うんです。それこそ商業施設を体験型に変えるとか、本質を見極めてそれを別の形にしていく。例えば、コーヒーカップでスープを飲んだっておいしく飲めればいいじゃないという話です。

佐藤 ミッキーのすごいところは、毎週会うたびに「今度、これやろうと思う」と新しいアイデアを考えていること。え、それ本当にやるの? という驚きを17年間もらい続けている。毎回新鮮なハラハラドキドキをね。

対談後編に続くーー。

 

17年間にわたる三木谷×可士和の仕事の軌跡(2003~2013)

クライアントのなかでも、最も長い間携わってきたのが楽天。これまでの楽天との主な仕事を紹介する。

楽天ロゴ

2003年 楽天という新しい企業の日の出
強烈なインパクトとして残る“コーポレートアイデンティティ”をつくってほしいという三木谷氏のリクエストに応えて誕生したロゴ。

ヴィッセル神戸

2004年 勝利への強い希求を込めて
サッカーチーム「ヴィッセル神戸」とメインスポンサー契約を締結(現在は運営)。ロゴはクラブ名の語源のひとつ「VICTORY」の頭文字「V」をモチーフに作成。

東北楽天ゴールデンイーグルス

2004年 勝利に向かって飛び立つイヌワシ
日本のプロ野球界に50年ぶりに誕生した新球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」。デザイン監修したロゴはイヌワシが勝利に向かって力強く飛ぶ姿を表現。

楽天タワー

2007年 仕事環境はクリエイティブを左右する
グッドデザイン賞(オフィス部門)を受賞した「楽天タワー」。フィットネスジムや自習スペースがあり、480席ある社員食堂では朝昼とも無料で料理を提供。

楽天主義

2008年 2万人超の社員の心をひとつに
楽天の価値観・行動指針を示す「楽天主義」を制定。五箇条の「大義名分」「品性高潔」「用意周到」「信念不抜」「一致団結」を並べ、ひとつのまとまった形にした。

楽天スーパーSALE

2012年 人気のセール企画がスタート!
楽天市場のセール企画「楽天スーパーSALE」が初めて開催された。今や年4回ほど行われる大人気企画へと成長している。開催時期に流れるCMも印象的。

楽天カードマーン

2013年 一度見たら忘れられない強烈さ
「楽天カードマーン♪」というサウンドロゴと川平慈英氏が演じるカードマンが鮮烈な印象を残し、CMが放映されると同時に話題に。カード会員数も急増した。

お買いものパンダ

2013年 老若男女に愛されるキャラクターに成長
お買いものパンダのLINEスタンプの利用人数は5000万人超え。楽天ポイントダンスはピカチュウの声でおなじみの大谷育江氏が声優、ラッキィ池田氏が振り付け。

悲願の日本一

2013年 東北に勇気を与えた悲願の日本一
2011年の東日本大震災によって大打撃を受けた東北地方。元気を届けるためチーム一丸となって優勝を目指し、創設7年目にして見事日本シリーズを制覇した。

楽天クリムゾンハウス

2013年 社員の働きやすさが業績につながる
本社を二子玉川の「楽天クリムゾンハウス」へ移転。カフェテリア、クリニックなどを完備。楽天が創業時から大切にする働く環境へのこだわりがつまっている。

 

Hiroshi Mikitani
1965年兵庫県生まれ。日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て、1997年楽天を設立。同年「楽天市場」を開設。現在は70以上のサービスを30の国と地域にある拠点から世界に展開している。

後編はこちら
【三木谷浩史×佐藤可士和 対談】17年最高のビジネスパートナーの秘訣

TEXT=今井 恵

PHOTOGRAPH=篠山紀信(トップ画像)

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