GOURMET

2025.01.25

山形の名宿「瀧波」でローカルガストロノミーを考える

山形の置賜(おきたま)盆地にある旅館「山形座 瀧波」。ここは温泉のみならず美食も有名。この名湯の宿で、ローカルガストロノミーを考えるフォーラムが開催された。食のプロフェッショナルたちが語り合ったこととは――。

瀧波

魔法の盆地、置賜盆地

ローカルガストロノミー。それは地域の風土や歴史、文化を料理に表現すること。その土地の食材はもちろん、独自の食文化を味わい、楽しむことが今、世界中で注目を集めている。そんなローカルガストロノミーについて考えるフォーラムが2024年12月に山形・置賜盆地にある温泉宿「山形座 瀧波」で開催された。

この「食文化フォーラム@瀧波」は、日本の食文化を発展させようと活動している「食文化ルネサンス」が、次世代の食文化を担うリーダーを育てようと、日本各地で開催。今回は大阪のミシュラン三つ星レストラン「HAJIME」の米田肇氏、京都の名店「京料理 木乃婦」の高橋拓児氏、世界的フーディーの本田直之氏らをゲストに迎え、東北と新潟のシェフ、蔵人40余名が熱く語り合った。

「今は答えのない時代。そんななかで、唯一無二の価値を提供するお店でないと生き残っていけません。社会への発信力、関係者を巻き込むリーダーシップ、また時代をつくる感性、こういうものを持った人がこの食の業界に出てくることを強く期待しています」という、「食文化ルネサンス」専務理事の二之湯武史氏の叱咤激励からフォーラムは始まった。

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「食文化ルネサンス」の二之湯武史氏(左)が、参加者に今回のフォーラムの意義について語った。

「白トリュフ、そういう高級食材もいいけど、地元の素材だけで5万円で出す。そういうことに挑戦する、ということが大切です」と話すのは米田シェフ。

「それに対して、『いやいや無理。ここ山形だし、交通の便も悪いし』と諦めてしまう人がほとんどだと思うんです。でも、多分やる人はやるんですよ。ぜひ、そういうことにチャレンジしてほしい。だってお金を払う人は絶対にいるから。世界は2050年まで人口が増えていく。目を向けるのは国内ではなく世界です。

山形が何をしたら、世界はもっと幸せになるんだろう。そんな風に大きな視野で考えたりすると、文化としてつながって確かな食文化になっていく。そして、世界に発信できるんじゃないかなと思います」(米田シェフ)

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「HAJIME」の米田肇シェフ。

食のプロフェッショナルが熱くディスカッションをしている途中、ローカルガストロノミーを議論する材料として、「山形座 瀧波」の中川強シェフと、「瀧波」の別館で、3室のオーベルジュ「オステリア シンチェリータ」の原田誠シェフによる置賜盆地の食材を使った料理が提供された。中川シェフは言う。

「置賜盆地は魔法の盆地と呼ばれています。最上川の上流にあって、四方を2000m級の山に囲まれた山形県南部に位置するここは、水と土壌に恵まれた地域。乾いた風と豊富な日照量、夏は昼夜15℃にもなる寒暖差が、圧倒的に味わい深い米や野菜、果物など置賜盆地ならではの農作物を育ててくれるのです」

この日供された「恋か愛か」と名付けられた皿は、鯉を使った一品。ふっくらとした身とパリっとした皮の鯉を、鯉でとったブイヨンと赤ワインのソース、玉ねぎの甘酢煮、野菜のパウダーと絡めていただく。

「山形には独自の食文化があります。鯉も隣の新潟では観賞用ですが、山形では食べます。そのはじまりは江戸時代。米沢藩の名藩主・上杉鷹山公が、内陸で水産資源が乏しい地で滋養のある食材を確保するために、鯉の養殖を進めたそうです」(原田シェフ)

東京より地方にチャンスがある

創業80余年の名料亭「京料理 木乃婦」の高橋氏は言う。

「山形の料理って何なのか? 山形という地域のフォーマットに落とし込むことを突き詰めることがとても重要です。それが根付くってことだと思うんですけど、それってかなり難しい。

私が修行した『吉兆』のフォーマットは日本料理で、決して浪花料理でもないし、京料理でもない。全国津々浦々、郷土料理を日本料理に変換したのが『吉兆』です。なので京料理ではまったくありません。

5年間『吉兆』で修行して京都に帰ってきたのが27歳、それから7~8年かかって、やっと京料理に変換することができた。代々受け継がれてきた『木乃婦』のフォーマットに落とせた時点で、やっと自分の料理になったといえます。『吉兆』で学んだ日本料理を一旦脱色してから京料理に染めるということが本当に難しかったのを覚えていますね」

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「京料理 木乃婦」の高橋拓児氏。

フーディーの本田氏は言う。

「僕は8年ほど前、米田肇シェフや新政の佐藤祐輔杜氏らにインタビューした『オリジナリティ』という本を出しました。その時、帯に批判上等って書いたんですね。要は、全員に響かせようと思ってなにかをやると、実は誰にも響かない。例えば『1000人のお客様がいて、10人のお客様だけに響けばいい』、そこまで振り切った時に何かが見えてきた、という人たちが多かったんです。

最初は批判も受ける。でも、それを乗り越えた時にオリジナリティというものが生まれる。それに人は集まって来るし、ビジネスとしてもうまくいくようになる。今はしっかりと哲学をもって、それをブレずにやっていくということが大事な時代。そしてオリジナリティが伝わりやすい時代にもなっていると思います。

だからこそ地方にチャンスがある。東京でやるよりも断然いい。昔は地方でオリジナリティを持っていても、日本中に伝わること、世界に伝えることが難しかったんですが、このSNS時代、世界中に伝えられるし、世界の人はオリジナリティがあれば、どこまでも来てくれます」

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フーディーの本田直之氏。

フォーラムに参加した面々は、ゲストの話を聞き、そして他の参加者である東北の食のプロフェッショナルとディスカッションをするなかで、皆おおいに刺激を受けたよう。彼らからは「唯一無二の価値を突き詰めたい」「揺るぎない信念を持ち続けなくてはいけない」「もっと歴史や文化を掘り下げて料理に反映させていきたい」「目線を高く持つことが大切だと思った」といったコメントが寄せられた。

最後に、今回の「次世代食文化フォーラム」を山形に招致した「瀧波」の南社長は、「置賜盆地は魔法の盆地。一日の寒暖差がすべてを美味しくしてくれる。これからも食を中心とした唯一無二の置賜盆地を作り上げるべく、この地の仲間と連合軍で切磋琢磨して精進していきたい」とフォーラムを締めくくった。

ローカルガストロノミーという食の魔法で、置賜という地がニセコや由布院のような世界中から人が訪れるデスティネーションになるか、これから目が離せない。

南社長
「山形座 瀧波」と「オステリア シンチェリータ」の南浩史社長。

山形座 瀧波
住所:山形県南陽市赤湯3005
TEL:0238-43-6111
客室数:19室
料金:1泊2食付き¥48,000~(2名1室利用時のひとり料金)

OSTERIA SINCERITÀ
住所:山形県南陽市赤湯3005
TEL:0238-43-7800
客室数:3棟
料金:1泊2食付き¥77,000~(2名1棟利用時のひとり料金)

TEXT=八木基之

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