それは決して気まぐれではない。米音楽界の大スターが、なぜシャンパーニュメゾンを手に入れたのか、を来日した本人にインタビュー。そこには熱い情熱と、ブランドの可能性を見込んだビジネス感覚があった。【特集 シャンパーニュの魔力】
ミュージックとシャンパーニュには明らかな共通点がある
メタリックのボトルに勝負の切り札を意味するスペードのエース。シャンパーニュを「勝者が飲むに値する」と言ったのはかのナポレオンだが、アルマン・ド・ブリニャックこそまさしく、人生の勝者にふさわしいシャンパーニュといえる。
このメゾンのオーナーは誰あろう、アメリカ史上最高のラッパーにして、音楽プロデューサー、そして起業家でもあるショーン・ジェイ・Z・カーター氏。無類のシャンパーニュ好きで知られる彼は、ありとあらゆる銘柄を飲み尽くした末に、このアルマン・ド・ブリニャックに辿り着いた。ちょうどそれまでのお気に入りに代わる銘柄を探していたところで、知人から薦められて味わったところ、その品質の高さに惚れこんだという。
「当時のアルマン・ド・ブリニャックはまだ一般の人に知られておらず、まさにダイヤモンドの原石。無限の可能性を秘めていると感じました」とカーター氏。そしてついに、アルマン・ド・ブリニャックを買い取り、シャンパーニュメゾンの経営に乗りだした。
これまでもメゾンが著名人とのコラボレーションにより特別なキュヴェをリリースした例は枚挙にいとまがないが、メゾンをそっくり手中に収めてしまったのは前代未聞の出来事。しかしながら、ミュージックとシャンパーニュの世界には、意外なほど共通点があるのだと語る。
「音楽、絵画、小説、料理、さらにシャンパーニュ。芸術的なクリエイションから生みだされるものは、すべからく互いに共鳴しあっています。一度聴いただけでは薄ぼんやりしていたリリックの一部が、何度も聴いてるうちに鮮明になり、曲全体をより深く理解できるようになる。
アルマン・ド・ブリニャックのシャンパーニュも同じです。軽やかでスムースな飲み口だから、ひと口目では真のポテンシャルに気がつかない。ところが、繰り返し味わってみると、さまざまなフレーバーが感じ取れるようになり、その奥行きの深さに感銘を受けることとなるのです」
ゴールドボトルのブリュット、シルバーボトルのブラン・ド・ブラン、メタリックピンクのロゼなど、さまざまなキュヴェをラインナップするアルマン・ド・ブリニャック。どのキュヴェも3つの異なるヴィンテージをアッサンブラージュしたマルチヴィンテージで、フレッシュさを保ちつつ、過去のリザーブワインが複雑さをもたらしてくれる。
過去最長7年の瓶内熟成を誇る、希少なシャンパーニュ
そこに新たに加わったのが、ガンメタルのボトルに詰められた「ブラン・ド・ノワール ヴィンテージ 2015」。ピノ・ノワール70%とピノ・ムニエ30%からつくられ、7年とこれまでで最長の瓶内熟成期間を誇る。生産量はわずか、きわめて希少なシャンパーニュである。
「甘みが少なくドライ。アーモンドなどナッティなフレーバーのするシャンパーニュが私の好みですが、まさにこのブラン・ド・ノワールがそれ。一番のお気に入りです」
著名人の気まぐれにすぎないのではと訝しむ向きは、考えを改めなければならない。カーター氏のアルマン・ド・ブリニャックにかける情熱は本物だ。
「何百年も続くシャンパーニュのレガシーを尊重しつつ、現代、そして未来へとつなげていくビジネスとして真剣に取り組んでいます。音楽もシャンパーニュもファンに対する姿勢は同じ。最高のクオリティで満足させること。シャンパーニュについては一愛飲家に過ぎなかった私が、自然な流れでメゾンのオーナーになりました。それもシャンパーニュに対する情熱、愛があればこそです」
この記事はGOETHE 2025年1月号「総力特集:シャンパーニュの魔力」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら