2024年10、11月は大手メゾンのCEOや最高醸造責任者が続々と来日。創立以来の伝統を守り、最高のものをつくり続ける彼らに、ブランドの過去、現在、未来について話を聞いた。ボランジェ編。【特集 シャンパーニュの魔力】
家族経営ゆえ、リスクを背負って最高のものをつくる
“007”ことジェームズ・ボンドがこよなく愛するシャンパーニュ、それがボランジェだ。ピノ・ノワールを華やかに表現した芳醇で複雑な味わいは、知的で強く、粋な男によく似合う。このコラボレーションは、映画プロデューサーのアルバート・R・ブロッコリ氏とボランジェ・ファミリーの一員で社長職にあったクリスチャン・ビゾー氏との友情から始まったものだった。現在も紳士協定に基づき、このコラボレーションは続いている。
ボランジェは1829年、エペルネの北東に位置するアイ村に創業。ここは高品質なピノ・ノワールの産地の特級畑(グラン・クリュ)の村で、ボランジェは“ピノ・ノワールの名手”として知られる。現在も昔ながらの樽発酵を行うが、樽職人が常駐するなど、贅沢なつくりを守り続けている。
メゾンの6代目シリル・ドゥラリュ氏はこう語る。
「創業以来、私たちは家族経営であることを守っていますが、これこそがボランジェの強みです。メゾン内には樽の修理場があり、プレステージのキュヴェはルミュアージュ(瓶口に澱を集めるための動瓶作業)も手で行います。時間とお金がかかりますが、家族経営であれば、ただよいものをつくるためのリスクを背負うこともできる。すべての行程に時間をかけて最高級のものをつくることが、私たちの哲学なのです」
ドゥラリュ氏がグローバル・セールス・ディレクターに就任したのは、2024年1月。それまではナパ・ヴァレーやロワールで醸造家、栽培家として研鑽を積んだ。
「ボランジェがどんなメゾンか、幼少時から理解していました。外で学んだことを役立てていけたらと思います」
そんな彼が敬愛するのが3代目ジャック・ボランジェの妻、エリザベス・リリー・ボランジェ氏(マダム・ボランジェ)だ。彼の祖母がマダム・ボランジェの姪に当たる。夫亡きあと、第二次大戦中に遠くに爆音を聞きながらシャンパーニュをつくり続け、商品の供出を促したドイツ軍将校もひとりで撃退、メゾンを守り抜いたという逸話を持つ“リアル・ボンドガール”ともいえる存在だ。
「彼女は仕事に決して妥協をしない人でした。また、アイデア豊かで、長い熟成の後に澱引きするという当時としては画期的な『ボランジェ R.D.』(R.D.は“レサマン・デゴルジュ”の意)を開発した。今もメゾンのお手本です」
そして今、メゾンが力を入れているのが“ピノ・ノワールの美しさをより高め、可能性を追求すること”だ。それを象徴するのがピノ・ノワールのみでつくられたブラン・ド・ノワール「ボランジェ PN VZ 19」。深みのある味わいが強く心に残る。
「ボランジェが“ピノ・ノワールハウス”であることを広く知っていただきたいのです」
この記事はGOETHE 2025年1月号「総力特集:シャンパーニュの魔力」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら