洗練度、華やかさ、安定感に秀でた大手メゾンのシャンパーニュ。しかし、時にはどぎついくらいの個性にどっぷりハマるのも一興。RM、もといグロワー・シャンパーニュの迷宮へようこそ。【特集 シャンパーニュの魔力】
RMを知らず、飲まずしてシャンパーニュを語るなかれ
モエ・エ・シャンドンやローラン・ペリエなど、ワインショップやデパートの店頭でよく見かける大手メゾンは、その業態上、ネゴシアン・マニピュラン=NMに分類される。自社畑のブドウだけでは間に合わず、栽培農家からもブドウを調達し、シャンパーニュを醸造する生産者だ。その一方、自社畑のブドウのみを用いて、シャンパーニュを醸造する栽培農家もいる。この業態がレコルタン・マニピュラン=RMである。
大手メゾンのアイテムを飲み尽くしたシャンパーニュ通が、決まって次にハマるのがRM。生産量は大手と比べて二桁、あるいは三桁も少ない。その希少性がマニア心をかき立てる。
RMと呼ばず、今はグロワー・シャンパーニュ
数多くのRMを取り扱うレストラン「オレキス」オーナーソムリエの春藤祐志氏は、「今、めちゃくちゃ面白い」と言う。
「ジャック・セロスやエグリ・ウーリエを第一世代とすると、ユリス・コランやシャルトーニュ・タイエが第二世代。今はそこから第三世代、第四世代に進化して、すごいことになっています」
もっとも春藤氏によれば「RM」という言葉自体がもはや時代遅れ。現在は「グロワー・シャンパーニュ」というのが正しいそうだ。というのも、さまざまな事情により外部からもブドウを手に入れ、面白いシャンパーニュをつくっている優れたつくり手が少なくない。とはいえ、彼らは醸造業者である前にブドウを育てる農家。だからグロワー(栽培農家)なのだ。
グロワーの面白さは「個性が際立っていること」と春藤氏。ブドウがオーガニックだったり、酸化防止剤の亜硫酸を使っていないなど、大手ではなかなか踏みこみづらい領域にも果敢に挑戦する自由がある。
それに加えてグロワー・シャンパーニュに共通するのは「ピュアさ」だ。テロワールを純粋な形で表現するため、単一のクリュを超え、さらに小さな単一区画にこだわったりもする。ワインがピュアだから、砂糖等でお化粧するのは言語道断。よって低ドザージュ(糖分添加)も共通した特徴だ。
以下は春藤氏が選んだ今飲むべきRM、もといグロワー・シャンパーニュ。ぜひとも一度はお試しを。
1.スェナン|レ・ロバール クラマン ブラン・ド・ブラン グラン・クリュ 2015
3年で値段が3倍に爆上がりした真の気鋭
3年前と比べて価格が3倍に爆上がりした、今、最も入手困難なつくり手のひとり。スポーツインストラクターだったオーレリアン・スェナン氏が父の急逝を機に実家を継ぎ、ブドウ畑の再生から始めた。レ・ロバールは特級のクラマンとアヴィーズにまたがる単一区画で、スェナンの畑はクラマン側。「上品な酸のあとに押し寄せる力強さ」と春藤氏。
2.フレデリック・サヴァール|ラコンプリ プルミエ・クリュ NV
海外の著名評論家が将来トップと太鼓判
ワイン評論家のアントニオ・ガッローニ氏が、「遠くない将来、トップ生産者になるだろう」と太鼓判を押したという、モンターニュ・ド・ランス西側の一級エクイユ村のつくり手。ブルゴーニュワインの信奉者で、醸造にはオーク樽も使う。この「ラコンプリ」は8割が樽発酵。春藤氏は、「しっかりした骨格を持ちつつも、スタイリッシュ」とコメント。
3.ドント・グルレ|レ・ノジェ プルミエ・クリュ ブラン・ド・ブラン 2013
専門誌が時の人に選出。人気急上昇の注目株
アドリアン・ドント氏は、フランスのシャンパーニュ専門誌『Bulles et Champagne』でヴィニュロン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた新進気鋭。両親に代わり、2012年からシャンパーニュづくりの指揮を執る。「レ・ノジェ」は一級キュイ村の区画名。オーク樽発酵のブラン・ド・ブランで、春藤氏は「アプリコットやブリオッシュのアロマがする」という。
4.オーロール・カサノヴァ|メニル・シュール・オジェ・マロ NV
希少な特級畑を持つ元バレリーナの挑戦
プロのバレリーナとして世界中の著名バレエ団で活躍していたオーロール・カサノヴァ氏が、2019年からシャンパーニュづくりをスタート。ピノ・ノワールは母が所有する特級ピュイジューから、シャルドネは夫の実家の特級メニル・シュール・オジェを継承。これはメニルのブラン・ド・ブランで、「白桃や洋梨の香り。ほど良い厚みと優しい酸」と春藤氏。
5.コエッソン|ラルジリエ ロゼ NV
春藤氏がいろいろな縁が重なり自社輸入
縁が重なり、春藤氏が自社輸入まで始めてしまった、シャンパーニュ地方南部コート・デ・バールのつくり手。ヴィル・シュール・アルス村の単一畑ラルジリエを単独所有する。これはピノ・ノワールの果皮を果汁に漬けこむマセラシオン法でつくったロゼで、わずか3000本の生産量。「真紅のバラのような濃厚な香りがし、デーツのような甘み」と春藤氏。
※チャートの値段は、■ひとつにつき、小売価格1万円が目安です。
この記事はGOETHE 2025年1月号「総力特集:シャンパーニュの魔力」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら