PERSON

2024.12.01

水樹奈々や宮野真守を手がける作曲家、希少なシャンパーニュコレクションを公開

ワインコレクターなら大勢いるがシャンパーニュコレクターはまれ。バブルの煌めきに包まれし空間で作曲活動に打ちこむのは、アニメ、ゲームの世界で活躍する稀代の音楽クリエイターだった。【特集 シャンパーニュの魔力】

上松範康氏のアトリエにあるシャンパーニュディスプレイ
思い出深いシャンパーニュのボトルがディスプレイされた、上松氏のアトリエ。著名メゾンの当主も訪れたとか。

音楽クリエイター・上松範康が奏でる、重厚なシャンパーニュライフ

水樹奈々や宮野真守に数々の楽曲を提供し、大ヒット『うたの☆プリンスさまっ♪』や『戦姫絶唱シンフォギア』の原作・音楽プロデュースを手がける作曲家の上松範康氏。都内某所の高層階にあるアトリエを訪ねると、そこはシャンパーニュのバブルが舞い踊る夢のような空間であった。

まず目に飛びこむのはモニターの両脇に設えられたシャンパーニュボトルのディスプレイ。ローズ・ド・ジャンヌの「コート・ド・ベシャラン」やクリュッグの「クロ・ダンボネ」など、これまで上松氏が飲んできたシャンパーニュのなかで、特に思い出深いボトルが飾られている。

今ではシャンパーニュに熱を入れ上げている上松氏だが、ワインの世界に目覚めたのは極上の白ワインがきっかけだとか。

「ルイ・ラトゥールのモンラッシェでヴィンテージは1990年でした。飲ませてくださった方が、『味覚も聴覚も感覚から受け取る感動は大切。経験の積み重ねが音楽の幅を広げる』と諭してくださったんです」

そしてブルゴーニュの数々の銘酒を堪能した後、偶然出合った1本のシャンパーニュが上松氏の人生を変える。ʼ93年ヴィンテージの「ドン・ルイナール ブラン・ド・ブラン」だ。

「身体中を電気が走るくらい美味しかったですね」

その後はシャンパーニュの魅力にどっぷりハマり、大手メゾンを一巡した後は多くの人が迷いこむRM(レコルタン・マニピュラン)の世界を経験。今度はブラン・ド・ブランとは真逆のブラン・ド・ノワール、すなわち黒ブドウ100%のシャンパーニュに興味をもった。とりわけ虜になったのが、ディスプレイにも飾ってあるローズ・ド・ジャンヌだと言う。

「ブラン・ド・ノワールの華やかさがありながら実に繊細で、身体に染みわたる味わいに惚れこみました」

セラーの中は追熟のためのシャンパーニュでいっぱい

その後は大手メゾンのノンヴィンテージでもʼ80年代のデッドストックを試したり、2008年が偉大なヴィンテージと聞き、それをいろいろ買い集めたりもした。

「ʼ80年代の『モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル』を同じ頃のプレステージキュヴェと比べて飲んで、『あっ、モエのほうが美味しい』と驚いたこともありました。2008年はこの年をベースとした『クリュッグ グランド・キュヴェ 164 エディション』が日本未発売と聞き、マグナムを入手。ドン ペリニヨンの2008も買いましたが、飲んでみるとまだ若い。熟成させるとすごくなることは想像できるのでセラーで寝かせていますが、これら追熟中のシャンパーニュで今、セラーの中はパンパンです」

セラーに入ったシャンパーニュ
セラーで寝かせられているシャンパーニュ。これはごく一部。

シャンパーニュの問題がそこにある。高級ワインは熟成が前提だから、飲み頃のヴィンテージがわりと容易に市場で手に入る。一方、シャンパーニュの場合はデゴルジュマン(澱抜き)後に何年も熟成させたボトルが市場に出回ることはきわめてまれ。飲んで若いと感じたら、リリース直後に購入したボトルを自分で追熟させるしかない。

上松氏はシャンパーニュを輸入元のプライベートカスタマー直販や信頼できるネットショップで購入。オークションには手を出さないと言う。

「保存状態で何度か痛い目にあってるので、今はもう信頼できるルートからしか買いません。シャンパーニュ通の友人から、これは買っておいたほうがいいよ、と悪魔のささやきが入ると、ついつい手が出てしまいます」

ところで音楽を本業とする上松氏にとって、シャンパーニュとは何かを尋ねると、「自分を基本に立ち返らせてくれる存在」と言う。

「ブドウの品種や醸造法など、厳格に定められたルールのなかで、無数の味わいを生みだすシャンパーニュってすごい。僕らも限られた音階のなかで曲をつくらねばならず、『もうメロディーなんて思い浮かばないよ』と泣きたくなることがありますが、シャンパーニュのシェフ・ド・カーヴの仕事を思うと、そんな甘いことは言ってられない、と襟を正したくなりますね」

ピアノを弾く上松範康氏
隣室にグランドピアノがあり、ここで作曲に打ちこむ。ちなみに創作中にシャンパーニュを飲むことはない。

上松範康氏のシャンパーニュコレクション

上松範康氏のシャンパーニュコレクション

上松氏の数あるコレクションのなかから。左から、

「ルイ・ロデレール クリスタル 1978」。ʼ78年ヴィンテージが多いのは上松氏のバースイヤーだからだが、ワインと違い、シャンパーニュはバックヴィンテージを見つけるのはきわめて困難。

著名なアーティストがボトルをデザインする「テタンジェ コレクション」は、ヴィクトル・ヴァザルリがデザインしたʼ78年とアンドレ・マッソンのʼ82年を所有する。

上松氏をシャンパーニュの道に引きずりこんだ「ドン・ルイナール ブラン・ド・ブラン」。ただしこれは一般販売はされず、特定のカスタマーにのみ限定販売された「ラ・レゼルヴ 1998」。王冠ではなくコルク栓で瓶詰めして瓶内二次発酵、20年以上の長期熟成させたもの。

デカンター型のボトルが特徴の「ドゥ・ヴノージュ グラン・ヴァン・デ・プランス 1993」「ドゥ・ヴノージュ ルイ15世 1996」。前者は傑出した年のみにつくられる「プランス」の上位キュヴェ。後者はメゾンのフラッグシップ。

上松範康/Noriyasu Agematsu
作曲家。1978年長野県生まれ。2010年に音楽プロデューサーとして企画した『うたの☆プリンスさまっ♪』と『戦姫絶唱シンフォギア』が大ヒット。2012年にアリア・エンターテインメントを設立し、代表取締役として経営。

【特集 シャンパーニュの魔力】

この記事はGOETHE 2025年1月号「総力特集:シャンパーニュの魔力」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=柳忠之

PHOTOGRAPH=長尾真志

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