2024年10、11月は大手メゾンのCEOや最高醸造責任者が続々と来日。創立以来の伝統を守り、最高のものをつくり続ける彼らに、ブランドの過去、現在、未来について話を聞いた。サロン編。【特集 シャンパーニュの魔力】
偉大な畑とシャルドネが未来に続く伝説をつくった
時に“幻”と評され、飲んだだけで話題になるシャンパーニュ。それがサロンだ。単一年、単一村、単一品種でつくられ10年熟成させて出荷する。それも“極めて”作柄のよい年にしかつくられず、1905年のファーストヴィンテージから現行の2013年ヴィンテージの間につくられたのは、わずか37ヴィンテージ。ちなみに市販された初めてのものは、1920年にメゾンが創設された時にリリースした1911年ヴィンテージだという。
サロンは、20世紀初頭、毛皮商として成功したウージェーヌ・エメ・サロン氏が、「友人や自分のための最高のシャンパーニュを」と、贅沢なプライベートキュヴェとして誕生させた。その美味しさは評判となり、当時、上流階級の社交場だったパリの「マキシム」のプライベートシャンパーニュとして使われたことから、瞬く間に多くの食通たちを魅了した。
このサロンの成功の秘密を、CEO兼最高醸造責任者のディディエ・ドゥポン氏はこう語る。
「ウージェーヌ・エメ・サロンは美意識が高くオリジナリティに溢れた人物でした。今までにない新しいものを想像すること、それも最高のものであること。そのために彼は豊かなミネラルと美しい酸味を持つコート・デ・ブラン地区メニル・シュール・オジェ村の畑を選んだ。偉大な畑、偉大なシャルドネ。これがサロンの“伝説”をつくったのです」
確かに伝説的シャンパーニュだ。その熟成の美しさは唯一無二のものともいえるのだから。ドゥポン氏がこの“伝説”を受け継いだのは1997年のことだった。
「着任した時は、感動と驚きで胸がいっぱいでした。なにしろ、私はまだ33歳でしたからね(笑)。とはいえ、私がすべきことは明確でした。創設者が望んだ条件を尊重してシャンパーニュをつくり続けること。ただし、心がけたのはワインの質を向上させる技術には、いつもオープンでいることでした。サロンの哲学を守りつつ、ワインづくりは緻密に――。私は、ただそれを行っただけなのです」
ドゥポン氏の語り口調は穏やかでやわらかい。時にユーモアを交えるが、紳士的な佇まいを崩さない。ウージェーヌ・エメ・サロン氏もこんな人物だったのではないかと思わせる。
「彼との共通点があるとすれば、美しいもの、最高のもの、希少なものを好む点でしょうか。だからこそ、私は妥協せず、自らを律していられるのです。おそらく、サロンの伝説は続くでしょう。私たちは、それを守らなくてはいけません」
ちなみに、サロンがつくられない年は、ブドウは姉妹ブランドであるドゥラモットに使われる。これもまた、伝説となっている。
この記事はGOETHE 2025年1月号「総力特集:シャンパーニュの魔力」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら