東西に長い日本列島は、テロワールも百花繚乱。造り手の個性もあいまった、その多様性を存分に楽しみたい。すでに入手困難なワインばかりだが、見つけたら即購入を。今回はワイン賢者5人が選ぶ、北海道のプレミアムワインを紹介する。【特集 日本ワイン】
北海道ワインの特徴
長野県に次いでワイナリーの設立が活発な北海道。赤は絶大な人気のピノ・ノワールに加えてツヴァイゲルト、白はシャルドネ、ドイツ系品種に注目が集まる。
1. 多田ワイナリー「2021 メルロ ブラン・ド・ノワール」
じんわり染み入る味わいが、繊細な寿司を引き立てる
1901年から続く「多田農園」が2016年に設立したワイナリー。代表の多田繁夫さんが、北海道・岩見沢を拠点にするナチュールのキーパーソン、ブルース・ガットラヴさんのもとで習得した野生酵母によるワイン造りを行っています。
メルローを白ワイン仕立てにした珍しいキュヴェは、白ワインとしてリリースされていますが、可愛らしいピンク色で、しかも優しい微発泡。ガリのような甘酸っぱいニュアンスがあり鮨に合うワインです。(選者・菊地)
2. 相澤ワイナリー「さちろぜ2022」
日本の固有品種「山幸」で、酸の魅力に開眼!
札幌の日本ワインバー「スギモト酒店」で出合った、山幸という品種のロゼワインは、梅シソのニュアンスに、どこか懐かしさを感じる“さくらんぼキャンディ”のようなチャーミングな酸味が魅力。ワインの酸の美味しさは飲み慣れていないとわからないですが、私はこの「さちろぜ」に教えてもらいました。
完全無農薬にこだわり、生産本数が少ないので、ぜひ探してみてください。ヤマブドウや山幸のジュース&ジャムもお薦めですよ。(選者・ひぐち君)
3. 農楽蔵「フミヅキ・ブラン」
仲間との連携で育む、持続的なワイン造りと食文化
香ばしいナッツ、わずかなバニラに白桃の香味。フルボディで北海道のシャルドネの実力をこれでもかと見せてくれます。自園は化学合成農薬、化学肥料、除草剤不使用。自生酵母で発酵させ亜硫酸無添加。
造り手の佐々木賢さん・佳津子さんはフランスの国家資格取得の最強コンビで、畜産農家、チーズ生産者、料理人らと連携し、函館一帯のサステナブルなものづくりの実現に邁進しています。2023年9月に函館から北斗にワイナリーが移転。(選者・鹿取)
4. ワイン畑 浦本「tanemaki」
畑ファーストのワインは、赤や白の範疇を超える
白ワインの清々(すがすが)しさと赤ワインの奥行きが混在する魅惑的かつ個性的な味わい。造り手の浦本忠幸さんはまだ34歳で、ブルース・ガットラヴさん、近藤良介さんといった日本のナチュラルワインシーンを牽引したふたりの下で経験を積んでいます。
栽培もワイン醸造も家族との暮らしに取りこみたいと岩見沢に移住して開園。抜群のセンスを活かした、ジューシーで飲み心地の優しいスタイルが真骨頂です。2023年春、念願のワイナリーを設立しました。(選者・鹿取)
5. 平川ワイナリー「オストレア 2022 テール・ド・ヨイチ」
北の食材とのマリアージュに、牡蠣という名を冠した1本を
このワインは生牡蠣が大好きな造り手の平川敦雄さんが、牡蠣に合うように仕こんだワインです。華やかな花の香りに、レモンやグレープフルーツのような酸味、さらには海を感じるミネラル感があり、「余市牡蠣」との相性は抜群。料理が美味しくなるワインを造りたいという、醸造家の想いがこのワインにはこめられています。
土地の個性を味わってもらうため、敢えて品種は非公開。“グラスの中に映しだされる風景”をご堪能ください。(選者・ひぐち君)
6. ランセッカ「2022 早花咲月 ロゼ」
余市の若手のなかでも一目置かれる造り手!
余市のスター生産者、「ドメーヌ タカヒコ」の曽我貴彦さんの数少ない教え子のひとりである山川惇太郎さんが、2020年に立ち上げた「ランセッカ」。彼は実家が農家で、大学も農学部です。農業者としてブドウの力を見る目には、強い愛情とこだわりを感じます。
2022年、自社畑のワインをファーストリリースしましたが、すでにファンがついていて大人気。ナイアガラの微発泡は、チャーミングな香りとうまみに溢れる優しい味わいが魅力です。(選者・遠藤)
7. 山田堂「ヨイチ ミュラー 2021」
日常を華やかに演出する、高品質なテーブルワイン
2021年に農家から畑を受け継ぎワイナリーを始めたのが、山田雄一郎さん。スペインでワイン造りを学び、帰国後は山梨で修行。その後、ドメーヌタカヒコで研修もしています。
彼が目指しているのは、クオリティの高いテーブルワインです。この1本は、スクリューキャップとカジュアルなスタイルながらも、ゆっくり1年半かけて蔵熟成。ブドウの香りと果実味を、あますことなく引きだすセンスと高いスキルを感じることができます。(選者・遠藤)
8. ロウブロウ クラフト「ノーナイアガラ 2022」
注目の造り手のファーストヴィンテージ
2023年10月に誕生したばかりのワイナリーが「ロウブロウ クラフト」です。造り手は、地元に根差したワイン造りを目指す赤城学さん。彼もまた、「ドメーヌ タカヒコ」の曽我貴彦さんのもとで修行しています。
この1本は、健康に熟した無農薬のナイアガラを野生酵母で仕こみ、亜硫酸塩なども不使用。果実感あふれる香りと優しくも溌剌とした酸があり、穏やかな味わいのなかに深い旨みが味わえます。今後も彼の挑戦に目が離せません。(選者・遠藤)
9. モンガク谷ワイナリー「楢Nara」
フィールドブレンドで、土地や造り手の個性を表現
この「楢」は日本において、無名ともいえる品種ピノ・タージュが主体のフィールドブレンドです。フローラルな香りに包まれ、蜜のような甘やかな印象で、複数品種のブレンドからもたらされる柔らかい酸味が全体的に感じられます。旨みもあって、合わせる料理も幅広く複数のお皿と楽しめるはずです。
ヨーロッパにおける「オーク(楢)の存在」のように、飲み手に寄り添えるような、驚きと感動を与えられる新しいワインです。(選者・矢田部)