人気のワインを手に入れるために、情報収集は欠かせない。ならば扉を叩くべきは、西麻布にある日本ワイン専門店「遅桜(おそざくら)」だ。同店の名ソムリエ大山圭太郎氏が、注目の造り手5名を紹介する。【特集 日本ワイン】
1. 北海道空知郡「ハマダヴィンヤード」濱田洋文氏
北海道は空知(そらち)地方も見逃せない
近年、北海道のさまざまな地域でワイナリーが設立されていますが、そのなかでも将来性の高さを感じるワインを造っているのが、空知地方の三笠市にある「ハマダヴィンヤード」です。すでに入手困難なため、出合えたら必ず入手しておきましょう。
私がテイスティングしたワインの印象は、香りはどちらかというとアロマチックな印象が強く、味わいはキャッチー。お酒があまり得意ではない方にもお薦めの1本です。
北海道は注目度の高い余市だけではなく、空知地方からも目が離せません。三笠市や岩見沢市には、ワインツーリズムとして旅行に行かれる方も多いと感じています。日本ワインの産地として、北海道は計り知れない可能性がありますね。
2. 岩手県花巻市「アールペイザンワイナリー」高橋和也氏
社会課題も解決するワイナリーの新しい形
高齢者や障がい者支援を行う社会福祉法人悠和会が、岩手県花巻市で2019年に立ち上げたのが「アールペイザンワイナリー」です。
障がい者や高齢農家への支援の一環として誕生したこのワイナリーは、自社農園で栽培したリンゴのシードル造りからスタートしました。並行してブドウの栽培も開始し、2021年にはファーストヴィンテージをリリース。海外系品種の栽培にも積極的に力を入れていて、僕がテイスティングしたゲビュルツトラミネールは、もうアルザスのそれと違いがわからないほど。クオリティの高さに感動しました。
岩手は、ワイナリーツアーの目的地としても最高です。シードルも素晴らしいので、ぜひ訪れて味わってみてください。
3. 栃木県芳賀郡「クサカヴィンヤード」日下篤氏
今後がますます楽しみな若手の代表格
山梨県の有名ワイナリーである「シャトー酒折」にて醸造技術を学んだ日下篤さんが、2016年に地元である栃木県市貝町で設立したワイナリーが「クサカヴィンヤード」です。
ファーストヴィンテージは、2020年にリリースされました。自社農園産のマスカット・ベーリーAや山梨県産の白ブドウ品種などを使って委託醸造でワインを造っていますが、白ワインの透明感や、赤ワインの複雑味など、飲むたびに毎回驚かされています。
日下さんの人柄は、ユーモアがありまじめ。ワイン造りに取り組む姿勢は、次世代の造り手のお手本となる存在と言えるかもしれません。自社醸造に向けてワイナリー設立の予定もあり、今後も目が離せない造り手です。
ソムリエが選んだのは日本版ボルドーの丘
日本有数のカルスト台地である、福岡県北九州市の平尾台。この場所でワイン造りをするワイナリーが「ドメーヌ・ル・ミヤキ」です。造り手はソムリエでもある、宮木秀和さん。
平尾台にボルドーの面影を感じた宮木さんが、ブドウを植え始めたのは2009年のことでしたが、納得のできるワインが出荷できるまで約8年もの月日がかかったそうです。ソムリエの妥協なきこだわりを感じます。
宮木さんが造るワインは、海外系の品種を中心としたものですが、ソムリエだけあって、ワインの特徴を表現しやすいワインといえます。僕もお客様にサーブする時に香りと味わいを伝えやすいと感じました。これからがますます楽しみなワイナリーです。
5. 大分県竹田市「久住ワイナリー」土持浩嗣氏
彗星のごとく現れた新進気鋭の造り手
大分県の久住高原にある「久住ワイナリー」は、2005年からワイン醸造を始めましたが、2018年に醸造責任者が土持浩嗣さんに交代したことにより評価が高騰。土持さんが造るワインは、国内外で数々の賞を受賞するようになり、2022年に続き2023年も日本ワインコンクールでシャルドネの2銘柄が金賞を受賞し、そのうちのひとつは部門最高賞を獲得しました。
九州にありながら、高原という冷涼な気候と水捌けのいい火山灰土壌、そこに土持さんという才能が加わり、天地人が一体となったワインと言えるのではないでしょうか。
香りだけでも、久住ワイナリーだとすぐにわかる程の個性と品質は流石です。そのワインは年々入手困難になっています。