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2023.10.06

瞬く間に入手困難に! 新進ワイナリー「テールドシエル」が注目を集める理由

日本ワインらしさとは何か? 常に自問し、苦悩しながらも己の信じる道をひたむきに歩む。その姿勢が、日本ワインの品質を高め、世界に誇れるワインを生みだしていく。次世代の造り手の代表格、長野県「テールドシエル」の桒原一斗氏を訪ね、話を聞いた。【特集 日本ワイン】

テールドシエルの桒原氏

「優しくすべてをだし切ることがブドウへの感謝の気持ちです」

テールドシエルは、長野県小諸市にある新進の家族経営ワイナリーだ。栽培醸造責任者の桒原一斗さんが手がけたシャルドネはピュアなエキスが沁みわたる。2021年の初リリース直後、多くの飲み手の心を惹きつけ、瞬く間に入手困難になった。

近年日本ではワイナリーの増加が著しく、その数は、今年の調査で468軒。その大半が年間生産量が1万本前後の極小規模なワイナリーで、テールドシエルも例外ではない。テールドシエルのワインがこれほどまでに注目を集めたのはなぜか?

まずは畑の立地条件だ。長野県や北海道の多くの新進ワイナリーのように、テールドシエルはブドウ栽培からスタートした。2015年、2016年と、ワイナリーオーナーの池田岳雄さんが小諸市糠地(ぬかじ)にソーヴィニヨン・ブランを植えたが、その土地はワイン用ブドウ栽培の前例がなく、一部は標高が940mと異例の高さ。寒さでブドウが育たないのではないかという声もあった。しかし栽培醸造責任者の桒原さんの考えは違った。

「風は冷たいが陽光は強い。昼夜の寒暖差も大きい。ここならブドウはゆっくりと熟していく。唯一無二の個性が生まれるはず」

テールドシエルのシャルドネ
シャルドネの房。房には光を当てすぎないようにしている。2023年の収穫は10月中旬頃。

そう語る桒原さんの存在自体も大きな意味がある。最近日本では、ワイン造りに携わる人を「造り手」と呼ぶ。この言葉には、丹精こめて育てたブドウでワインを造る人への敬意がこめられている一方、造り手自身が自らを造り手と名乗る時にはワイン造りへの自負が滲む。桒原さんもそうした造り手のひとりだ。

現在42歳の桒原さんは栃木県にあるココ・ファーム・ワイナリーで、16年間のブドウ栽培の実績を持つ。その間、今も日本の造り手たちに絶大な影響を与えるアメリカ人の造り手、ブルース・ガットラヴさんに出会い薫陶(くんとう)を受けた。ワインはテロワールを映しだすものと考えるようになったのもブルースさんの影響だ。そして義父の池田さんがテールドシエルを設立する際、一員として働くことになった。

ブドウを取り巻く、風、水、土をワインに封じこめたい

桒原さんは醸造では培養酵母、酵素などの添加物は加えず、補糖、補酸もしない。

「発酵から熟成までの道のりを、自生酵母などの自然の営みに任せたいんです。私は、ブドウと風土を受け入れ、それに寄り添ってワインを造りたい。ここぞと感じた時にそっと背中を押してあげればいいと思うんです」

基本的に亜硫酸は無添加。たとえ少量でも添加すると、ワインを飲んだ時に浮かぶ景色が狭くなってしまうと考えている。

醸造所の様子は他のワイナリーとはかなり異なる。一般的なワイナリーに並ぶ温度コントロールつきタンクは見かけない。代わりにあるのはイタリア製の垂直式プレス機だ。この機械を使えば、通常の10倍以上の時間でゆっくりと果汁を搾ることが可能となる。

また、ワイナリー内でのワインや果汁の移動は、ポンプではなく重力を使い、その距離は極めて短い。酸化のリスクが高まれば、亜硫酸の必要性も高まるからだ。こうした作業が果汁やワインに優しい造りにつながると桒原さんは考える。

「果汁やワインに優しくすることを極限的にやり尽くす。そこは絶対に妥協したくない」

テールドシエルのプレス機
イタリア製ステンレスの垂直式プレス機。48時間かけて垂直方向に優しく果汁を搾れるため、最後の一滴までえぐみが出ない。プレス機はコンクリートの台の上に設置し、果汁はポンプを使用せず重力で樽の中に落ちていく。

何も足さずにブドウのみからワインを造りたい。その思いから、桒原さんが何より大切にしているのは畑の作業だ。栽培95%、醸造5%。桒原さんは自身のワイン造りに占める大切さをそう語る。

「畝(うね)の向きは多様で取り巻く環境はブドウ樹1本ずつ違います。だから作業はマニュアル化したくない。1本1本のブドウの声を聞き、作業を進めたいと思っています」

枝に鋏を入れて切った感触、植物たちの生育、風や太陽。すべてがブドウが何を必要としているかを教えてくれる。そんな時、桒原さんが大切にしているのは感性だ。極力畑に入って感性を高めたいとも言う。醸造も同様で、感性を研ぎ澄まし、無になってひとりで集中する。

桒原さんがワイナリーに参画してからブドウ樹も見違えるようになった。栽培中の10品種で可能性を感じているのはソーヴィニヨン・ブランだが、彼にとって4年前までは糠地は未知の土地。常に新しい品種にも挑戦しているという。2022年からは個性の異なる畑、区画を区別して収穫、仕こむように。

単一品種でワインに仕上げるのか? 複数品種をブレンドするのか? 何がテロワールを映しだすか? 試行錯誤を続ける。桒原さんのワインは今後も変貌と進化を遂げそうだ。

テールドシエルのワイン3本
左:奥行きのある味わいで人気の「ソーヴィニヨン アン ベトン2021」(¥4,840)。自社農園のソーヴィニヨンブランを卵型コンクリートタンクで発酵熟成。中:自社農園のシャルドネを古樽で発酵熟成させた「シャルドネ2021」(¥4,620)。2022年ヴィンテージは、すべて価格未定で、白は2023年11月下旬、赤は2023年12月に発売予定。生産量は約1万本。右:梗の熟し具合で選別し、一部除梗と残りを房のまま発酵させた「ピノ・ノワール2021」(¥4,840)。

長野県小諸市・テールドシエル/Terre de Ciel
公式サイトはこちら

桒原一斗/Kazuto Kuwabara
1981年栃木県生まれ。1999年栃木県の足利消防署に就職。同県のこころみ学園・ココ・ファーム・ワイナリーでボランティアとして働き、2004年にココ・ファーム・ワイナリーに就職。自社畑の栽培の管理に関わる。2009年同ワイナリーの栽培チームのリーダーとなる。2020年に義父池田岳雄さんが設立したテールドシエルに入社、栽培醸造責任者に就任。2022年より専務取締役を兼ねる。

【特集 日本ワイン】

TEXT=鹿取みゆき

PHOTOGRAPH=金玖美 EDIT=西原幸平(EATer)、Ena

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